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42話:04

「君、誰かをお探しかな?」

女は振り返った。さらりと亜麻色の髪が流れる姿も美しい。魅入っていると、周りの男たちも彼女に話しかけ始めた。

「こんなことろに来てはいけないじゃないか。ここは一応、貴族しか入れない場所だからね。でもまあ、君くらい可愛いければ全然問題ないけどさ」

「おい、何気持ち悪いこと言ってるんだよ。引っこんでろ」

「何だと、俺にもしゃべらせろよ!」

言い争いになり始めたころ、女が澄んだ声を張った。

「私は……、コウといいます。あの、神軍の総隊長に会いたいのだけど、何処に行けばいい?」

「神軍隊長って、リセイ=オルレアン様のことか? それはまた、どうして……」

問いながら、「コウ」という名は何処かで聞いた名だと思い返す。とても重要な人物の名であったような気がしてならない。

男たちが軽く相談している途中、風の様に一瞬の間で、彼らの周囲が人で埋め尽くされた。

人、と言えども、唯の人ではない。真っ白なローブに緋色の甲冑を纏った皇族兵だ。

自分たちは何も悪いことはしていないのに、何故突然兵士に囲まれなければならないのか。
若干の抵抗を見せたところ、皇族兵の後方から重々しく低い声が投げ出された。


「こんなところに居たのか」

男たちはびくりと肩を揺らせた。別にさぼっていた訳ではないぞ、と恐る恐る顔を上げてみる。だが、声の主を目にした瞬間に顔を上げたことを後悔した。

「リ、リセイ様! 何故貴方がここに……」

この銀髪の男を前にして、ようやく琥珀の彼女が誰だったのかを思い出した一同は、大慌てで身なりを整えた。

「その娘が君たちに何か無理を言っていただろうか?」

「い、いえ! その様なことは決して御座いません! ただ、貴方様にお会いしたいと……」

「私に?」

リセイはゆっくりと顔を動かし、立ち尽くしたままのコウに目をやった。

「待ち切れなかったか」

何がそんなに可笑しいのか、彼は至極嬉しそうに顔を緩ませた。
こちらは嫌でも昨日の事を思い出してしまうのに、彼はもう忘れてしまったかの様に平然としている。
ほっとした反面、それはそれで腹が立つ。

「や、やめてよもう……」

「済まなかった。君の習性を忘れていた」

「何それ……変なこと言わないでよ」

 一瞬にして顔が熱くなる。明らかに面白がっているのは分かっているが、悔しい。だがこれで剥きになるとまた何か言われそうだ。

「そ、それよりね」

「あの兄妹の事か? 二人は今城内で色々と説明を受けている。会えるのはもう暫く後になるだろう」

「説明って何の?」

「明後日から開かれる帝王生誕祭に彼らも一国の代表として参加するそうだ。その打ち合わせだが……まあ、ヘルトのことだ、式典の流れは粗方頭に入れているだろう。直ぐに終わる」

「……そう」

早く彼らの元気な姿が見たい。そうしてコウが浮かない顔をしていると、何かを察したリセイが突拍子もないことを言った。

「私が話し相手では不服かな? お姫様」

「も、もう! 変な言葉ばっかり使わないで! わ、私はリセイに会いに来たんだから……」

「そうだったな」

くつくつと笑う姿が憎らしい。
こうして怒りを剥き出しにしているコウだが、周囲の人間からすれば、なんて命知らずな娘なのだろう、という風に映る。

今、こうして会話をしている相手こそ、後の帝国を治める高貴な御方であるというのに、だ。下位の人間からすれば不思議な光景だった。

「コウ、行くぞ。……邪魔をしたな、貴殿等よ」

「い、いえ、その様なことっ」

口籠る貴族の男たちを視線だけで制し、リセイはコウへと手を差し伸べた。

暗黙の了解、とでも言うのか。彼の眼は確かに「来い」と言っていた。

「……横暴」

「ん?」

「なんでもない」

男にしては綺麗すぎる手を遠慮がちに取った。





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あきゅろす。
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