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42話:03

広々とした玄関から爽やかな風が吹き抜けた。白のワンピースはふわりと浮かび、裾のレースがゆらゆらと揺れた。
中が見えそうになる寸前になって慌てて押さえていると、横から女官に話しかけられた。

「お早う御座います、アムリア様。昨夜はよく眠られましたか? 何せ慣れない異国のこと、十分配慮するようにと仰せつかっておりますから……、まあ? アムリア様ったら、その様な格好で」

女官は少し頬を赤らめた。コウの服装は寝巻そのもの。当然下着が透けている。
両手で胸の辺りを隠しながら返答した。

「え、いや、その……ごめんなさい」

「まあ」

女官は福与かな頬を緩ませた。コウより一回り年上だろうか。余裕のある、柔らかな頬笑みだ。

「着替えを済ませたらお食事に致しましょう」

「そ、そうですね」

着替えてきます、と回れ右をして歩き出したコウだが、不意に何かが脳裏を掠めた。
すっかり忘れていたが、昨日は色々なことがあったのだ。

「そうだった……。あの人は……ヘルトさんは何処っ?」

「アムリア様?」
「サラは……? あの子酷い怪我をしていたの。ヘルトさんだって氷付けにされていたんだしっ」

浮言の様に呟いているコウを、女官は訝しげに見た。

「アムリア様、あの?」

「二人は何処? 二人の所に連れて行って!」

「それよりも、先ずは着替えと朝食を……」

「そんなこと気にしてる場合じゃないの!」

突然騒ぎ出したコウに驚いているのか、女官は即座に応じてくれる気配がない。やきもきしていると、彼女はようやくコウの意図することが分かったようだ。

「あの、リュートニア公子と妹君は朝の会議に出ておいでですが」

それを聞いて面食らったのはコウの方だ。

「ええっ? 会議って、そんな訳……」

ない、とは言い切れない。あの兄妹は底知れぬほどタフだから、仮死状態にされてもけろっとしていそうではある。

「お二方は朝からずっとアムリア様の体を案じておいででした。どうか落ち着いてくださいませ」

ここにきて、やっと肩の力が抜けた気がした。
二人は無事だったのだ。特に後に残る傷もなく、一晩で歩けるようになるほど回復したという。
実を言うと、あの兄妹は奇跡に近いほど軽傷であったのだが、それを知らないコウは単純に胸を撫で下ろした。


 *****


厳粛な声に包まれながら、大勢の人々が帝王の御座へ向けて敬礼した。

訳あって、早朝から開催された帝国議会は、王属司祭や賢者、軍部の激しい対立により苦難を強いられはしたが、なんとか無事終了の鐘を鳴らすことが出来た。

議会に集まっていた帝国人は散り散りになっていく。浮かない顔をする者も若干名いたが、大抵は誇り高そうに闊歩していた。

「あの御方が後の帝国を導かれるとはな、頼もしい限りではないか」

「その通りだ。実質、これまでの帝国を支えてきたのは紛れもない、あの御方こそ、このフィルメント帝国を治められるべきなのだ」

皆それぞれが、声高に言い合った。

「そして何より、皇族としての証を引いておられたのはあの御方とアイリス様のお二人である。これはもう、喜ばしいことこの上ない!」

その通りだ、と貴族たちは笑い合った。

彼らは本当に嬉しいのだろう。この十数年間、定まった権力による統治も難しく、伏せがちの帝王を頼る訳にはいかずに、不安な日々を過ごしていた。
それが今、正当な後継者の出現によって呆気なく解決したのだから。

明るい声を投げ合っていると、庭先に見慣れない少女が飛び込んできた。
息を切らせている少女は、誰かを探しているのだろうか。淡緑のワンピースに白のボレロを羽織っている。その涼しげな格好は男たちを釘付けにした。

近づいてみると、少女というには大人びている、琥珀の瞳が綺麗な女だった。



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