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42話:02


目を瞑ると果てしない闇が広がっていた。

いくつもの欲が入り混じった、不快な感覚に襲われる。少しでも気を抜けば奈落の底に落とされてしまいそうだ。

暗闇の中から、とても温かいものが近づいてきた。

だけど手を伸ばすと必ず“それ”は遠ざかる。追いかけっこなんてするつもりはないのだが“それ”はただ闇の中に浮かんでいるだけだった。

“君は来てはいけない”

はっきりとではないが、そう言っている様に聞こえた。

もう一度、と催促したところで、ぷつりと闇が消えた。



「……あ、れ?」

掠れた自分の声で目を覚ます。コウはしばらく呆然と天井を見上げていた。

「なに、今の夢」

最近になって、こうした不思議な夢を多く見るようになった。何か意味がありそうなのだが、肝心なことろでそれを逃す。

以前クシャトリナ領主のバルトに相談をしてみたが心配ないと言われた。覚えていないというなら、まだその“時期”ではないのだろう、と。

全然納得できなかったが、するしかない。コウは今日も見てしまった不思議な夢を忘れてしまおうと、勢いよく背中の筋を伸ばした。


 第42話 守り神の縁


白い壁と気品ある茶色で統一された家具。城の中では比較的落ち着いた雰囲気の部屋にコウはいた。
こういう部屋に入れられて、貴族の扱いを受けるのはだいぶ慣れてきた。

片足を床におろす。冷えた板の温度が心地好かった。

いつの間に着替えさせられたのか、白いワンピースを着ていた。胸の辺りに小さなリボンが付いている乙女の様な服だ。
裾から細い足がのぞく。

部屋には誰も居なかった。昨日の事は朧気でよく覚えていない。

ただ、リセイと後に残る別れ方をしたのは確かだ。

「避けたつもりはないんだけどな……」

俺から離れるというのか、なんて言われてしまった。心外だ。まさかそんな訳がない。

リセイの顔を見ただけで心の奥が温かくなって、優しく疼いて、締め付けられて。
そんな感情は彼以外に知らない。

火照る頬に手を当てる。ふと思い出したが自分は昨日眠気に襲われて凄いことを言わなかっただろうか。

「……言った、言ったよ、間違いなく。それでも好き、なんて……皆がいる前で言っちゃったよ〜!」

今更恥ずかしくなって腕をばたばたと振り回した。

「どっどうしよう! しかも言い逃げしちゃったよぅ! ヘルトさんもクリスさんも、皆がいたのに! こ、こ、こっ」

告白してしまった。

「ま、前にも一回してるけどねっ。でもあの時はまだそんなつもりじゃないっていうか……とにかく昨日はすっごく心を込めて言っちゃったの!」

誰に弁解しているのか。自分しかいない部屋でコウは色々と捲し立てた。

「はぁ……どうしよう」

言ってしまったものはしょうがない。恥を受け止めるしかないのだ。
リセイは笑っていた様に見えたし、きっと大丈夫だろう。

「あぁ、でもでも……」

告白なんかより前に、もっと凄いことをされた気がする。
部屋中を右往左往して沸騰しそうな頭を冷やした。羞恥心に押しつぶされそうだ。
こうやって慌てふためく姿を彼は予想していたのだろうか。そうに違いない。

コウは部屋を飛び出した。向かう先など決まっていない。ただ居てもたってもいられなくなって表に出たかった。

部屋を出て、左右を見る。どちらの方向にも延々と広い廊下が続いていた。とりあえず右へ進んでみる。根拠はもちろん無い。

さくさく歩いていると、すれ違い様に挨拶をされた。腰を曲げて丁寧に一礼する女性はおそらく館内の使用人だろう。

こちらは朝の挨拶をしている余裕もない。足早に先へと進んだ。

五分程歩くと開けた場所に出た。館のエントランスだろうか。

自分が居たのは三階だったらしく、下を覗くと二階にも同じ様な廊下が見える。エントランスは数階上まで抜けていて開放感があった。



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