30話 帰郷06 黄金の神
彼女達を見届けた後、ヘルトが口を開いた。
「本当に何もかも突然で申し訳ない。色々と急いでいたものだから」
「急いでいたって、何かあったんですか?」
「ああ、本当はその事でロウベルトも呼んだんだ」
話を振られ、ロウは咳を払った。
「は、それは……やはり例の……」
「ああ、ホームズ氏の一件でね」
「ホームズ……ああ、センを攫った凶悪犯」
ロウがコウを見る。詳しい説明を求めている様にも見えたので、事件の一部始終を話す。
「奇跡の歌声……神の申し子か。確か私の屋敷にもそういう類の噂が流れていましたな。まあ皆面白がっているだけでしたが」
「本当に。まさか信じるとはね、いい大人が」
「そんな悠長な事言ってられないです。センは攫われたんですよ!?」
ヘルトはロウベルトと同じくらい年寄りっぽい雰囲気だ。かなり焦れる。
「いやいや、ごめんね。その子は君の知り合いだったね」
「はい。でも次に会うのはいつか……」
ふと、あの時の謎の集団を思い出す。センを狙う、ホームズが雇った盗賊団。そして彼らとは別に存在した何者かの影。彼らは最初からセンを狙っていた。
「盗賊団だけじゃなかったんだ。センを狙ってるのは」
「ああ、聞いたよ。何者なんだろうね、その集団は」
ヘルトも険しい顔をする。
「カルロを拘束した闇の力……あれ、精霊の類じゃなかったと思う。何なんだろう……」
「コウ様、カルロ、とは?」
聞き慣れない名前を耳にし、ロウベルトが躊躇いがちに口を挟んだ。
「……言ってもいいんでしょうか」
「ロウは信用していい。けど、どうするかは彼に任せるよ」
「彼って……カルロ、どうする?」
足元にいたカルロに視線を送る。それは、はたから見ればただの独り言だ。ロウは困惑げに首を傾げている。
『まあ、沈黙ばかりでは話が進みませんしね』
カルロは仕方なく呟くと、精神を集約し始めた。
「えーと……やりすぎじゃない?」
集める精神がいつもより多いと感じてそう言うが、間に合わずカルロはその姿を現してしまった。
「──!!」
ロウベルトとヘルトは声にならない声を出した。目の前に居るのは常識を逸脱した美しき人だった。
「金色の……神……!」
カルロが真の姿を現したが、それが実体ではなく精神体だったせいで、体が少し透けていて、余計に黄金の輝きを助長させる。
「自分から人型を見せるなんて……珍し」
『彼らには知る義務がありますから』
カルロは囁くような優しい声で話した。
「コウさん……これは一体」
ヘルトは言葉に詰まる。それはロウも同じだ。二人とも腰を抜かしそうな勢いだ。
「この姿が……樹の守護精霊カルディアロスの、本当の姿らしいですよ」
「神が、これほどに美しかったとは……」
ロウベルトは頭を垂れ、深く跪いた。それだけならまだしも、彼は頭を床に付けて地面と一体になった。その異常な敬いぶりに、開いた口が塞がらない。
「何やってんの……?」
そしてヘルトまで、強烈な神気を当てられ、少し震えていた。
「ヘルトさん?」
ヘルトなら神のことも知っていたはずだ。が、知識だけで理解していた“古の神”と随分違ったようで、あまりにも荘厳で、繊細な姿。
『お二人とも、普通にして下さって結構。今はまだその時ではありません』
「その時って……何のことよ?」
コウは知らなかった。精霊の王アムリアが輪廻していた時代。アムリアがどれ程上等な扱いを受け、また敬われてきたかを。
世界を左右する、精霊と通じる唯一の人間。それがアムリア。今でこそ、その存在意義を知る人間は少ないが、いたる所でアムリアの伝説や神話は語り継がれているのだ。
「守護精霊カルディアロス……我が一族のみ知る禁断の精霊と伝えられています。護神樹は世界の秩序管理者であり、また破壊神でもある、と」
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