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37話 混沌の海《15》


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 届かなかった。誰も犠牲にしたくないと思っていたのに……。
 結局私は、大切な友も救う事が出来なかったのだ。

「……コウ、起きたか?」

 朦朧とする意識を抉じ開け、コウは天井を仰いだ。いつの間にか眠らされ、ベッドに運ばれて今に至る。

 優しい声は傍に居たリセイのものだと直ぐ分かり、彼の苦しげな微笑みに胸が痛くなった。

「私が行けばよかった」

 悲痛な言葉が部屋に響く。

「私の所為……で、ユーリックが、ユーリ……っ」

 コウは目を覆い必死で涙を隠す。仰向けのまま下へ下へと止め処なく流れる雫が白いシーツを濡らした。

「コウ、こうなったのは君の所為ではない」

「……でも、それでも私が……っ」

 反発する様に起き上がって声を上げた。
 寝台の横で椅子に座っていたリセイは体を少し前に倒し、右手でコウの頬を包む。

「今は……彼を救う方法を考えよう」

「っでも……もう、ずっと帰ってこないんでしょう!? ユーリックは、海底に……」

「帝国に水精の専門家がいる。彼なら海底近くまでの状況把握が可能だ」

 少しだけ、コウの瞳が揺れた。

「じゃ……じゃあユーリックは!?」

「微弱だが生命の気配は残っていたそうだ。だが……」

 深く沈めばそれだけ人体に及ぶ力は強くなる。

「カルディアロスとフェザールーンは海界にまで関与出来ない。地上と海中の世界は大きく違うらしい」

 結局彼を救い出す術が見付からず、コウは絶望を感じた。

「私は……何も出来ないの?」

「コウ……」

「もうやだよ、私が行けばそれでよかったのに!」

 コウは俯いて悔しさに耐える。唇を噛み締めて涙を堪える姿は、不謹慎だと分かっていてもリセイの中の男を呼び覚ました。
 彼は耐え兼ねてコウの背に手を回し、そっと抱き寄せた。
 そのまま身を預けたコウは不意に違和感を覚えた。

「リセイ……ちょっと痩せた?」

「そうか……?」

 コウはリセイの胸に手を当てて確かめる。以前よりも大分疲労が感じられた。

「ついこの間まで戦場にいたんだもん、当然だよね……」

「コウ……」

 今はこうして寄り添うことしか出来ない。それが悔しくて、リセイはぎゅっと目を瞑った。


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 気が付けば、時刻は午後五時を回っていた。

 水平線の彼方に沈む美しい夕日も、この嵐では拝む事など出来ない。
 波は先程よりもかなり荒れていて、船に叩きつけられる大粒の雨が船内まで滑り込んだ。

 船の入り口で水かきをする商人は、寒さに凍えて身震いをする。肩に掛けられたタオルで顔の汗と雨水を拭い、嵐の空を見上げた。

「すげえな。まるで神の逆鱗に触れちまったみたいだ」

 これでは木板で漕ぐことも出来ない。帝国船も商船も完全に身動きが取れない状態であった。

「皆、少し休憩しましょう」

 そう温かな声で船内を包んだのは、既に眠ってしまったテラを抱える女性、フェンだった。

 商人たちは互いに見合い、精神的なものと嵐の防御で疲労しきった体に限界を感じた。

 男達がぞろぞろと広間に入って行く。

 一方フェンは、その向かいの客間へ向かう。部屋の中でカルロとルーンが静かに時を刻んでいた。

「カルディアロスさんとフェザールーンさんも、どうぞ」

 フェンの手には湯気の立ちこめるカップが二つ。少しでも和らげばと思って用意した様だが、二人の神は拒否した。

 フェンは気を落とす様子もなくカップを台に置いて、ふうと溜息を吐く。

 彼女もかなり気を張っていたのだろう。ここ数時間の疲労が顔に出ていた。





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あきゅろす。
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