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5:二次試験11

「だって退屈なんだもん。シェーンとやるの」

 そうしてガイアは駒を動かし相手のキングを見事に倒した。

「だぁ! また負けたぁぁ……。もう一勝負!」

「えー面倒くさいなぁ。もう諦めなよ。何回やっても君は僕に勝てないって」

「そんな事は無い! 次こそは必ず……」

「その台詞ももう飽きちゃった」

 シェーンいう赤髪の男は、一見真面目そうな顔立ちだが実際はかなり勝負事に熱い男だった。
 逆にそういう事に冷めているガイアは退屈そうに欠伸をして立ち上がる。

「おい! まだ勝負は……」

「勝敗なんてもうとっくについてるでしょ。それよりさぁ……」

 ガイアは相棒を無視して歩き出し、中央に置かれた水晶製のテーブルの前で立ち止まった。

「クリスさんと教皇、さっきから何やってるの?」

「この一大イベントを気にも止めてないお前が心底羨ましいよ」

 だらんと首を傾けて寛ぐアモンの頭にクリスの拳骨が入った。
 角が当たったのか教皇は痛そうに頭を撫でていた。

「……本当教皇って懲りないよね」

 放っといてくれると有り難いです、とアモンは呟く。
 それならお構い無しにと、ガイアはクリスの髪を手に取った。

「……いきなり何だ」

 さらさらと流れる赤い髪で遊ぶガイアに訝しげな表情を見せる。

「綺麗で艶々で気持ちいいなぁと思ってね」

「はいそこ口説くの禁止ね! 今お仕事中ね!」

 復活したアモンに一言。

「教皇の口から仕事とか、僕夢でも見てるのかな」

「私もかなり疲れが溜まっている様だ」

 ガイアのボケにクリスが被せ、居たたまれなくなった教皇は口を尖らせ席を立つ。
 傍にあった簡易寝台に横になり、ふて腐れて嘘寝をし始めた。

「それで、今日の仕事はもう終わりました?」

 拗ねた教皇を放置し、蒼戦士ガイアは壁際に向かって足を進めた。その先には大きなワイン棚があり、年季の入った珍しい物たちを楽しそうに眺めていた。

「今日は他にやることはないが……どうかしたか?」

「よかった、一緒にワインでも如何かと思いましてね」

 夜にワインを飲むのはガイアの趣味の一つだ。一人でもいいらしいが誰かが居る方が美味しいらしい。

 たまに付き合う事もあるが、今日は本試験の後始末やら食事会の準備やらでいつも以上に疲れていた。

 クリスは当然誘いを断るつもりだったが。

「何言ってんの、クリスにはまだ仕事が残ってるでしょ」

 寝ていたんじゃないのか、と溜息を吐く彼女は眉を顰めていた。
 少し天井を見て他の仕事があったかと思い出していたが、一行に思い当たらないので素直に「何?」と聞いてみた。
 金髪のお兄さんは、一言。

「僕のお守り」

 コンマ1秒後。

「ガイア、頂こう」

「わぁ、ホントですか? じゃあとびきりいいヤツ選びますね」

 アモンは完全に無視された。
 少し哀れに見えたが、彼がクリスを茶化すからこういう事になるのだ。まさに自業自得だが、アモンもわざと嫌われようとしているのではない。
 本当はどう接していいかわからないでいるだけなのだ。
 本人曰く百戦錬磨の彼が、こうも手こずる相手はこの世にクリスだけだろう。

「これなんか最高級ですよ」

 ガイアは本当に嬉しそうに赤ワインを手に取って見せた。

「いや、そんないいのは遠慮しておく。二日酔いは困るからな」

「クリスさんくらいお酒強かったら濃厚なのもいけると思いますけど」

 なんて褒めてるのか貶してるのか分からない言い方をされ、クリスは取りあえずありがとうと言っておいた。

 その反応に満足したのか、ガイアは四人分のワイングラスを用意し、それぞれに適量を注いだ。勿論濃度は薄めのものを。

「教皇、そんなことろで寝てばかりだとあげないよ」

「あ、一応僕にもくれるんだ。優しいねガイア」

 社交辞令だよ、と言うガイアだが満更でも無い様だ。普段は噛み合わない同士だが、意外に友好的ではある。

 皆にグラスを渡しおえ、ガイアは先ほどチェスをしていた窓際のソファに腰掛けた。

 シェーンも奥にある寝台に横たわりながらゆらゆら揺れる赤い液体を眺めている。

「アモン、寝ながら飲むなよ」

「シェーン君はいいんだ……」

「お前はダラダラ溢すだろ。簡易ベッドだが汚したら承知しないぞ」

 こわやこわや、と苦笑う。

 透明な薄藍色に耀く水晶の椅子に座り、アモンとクリスは会話も無く空間を共にしていた。

 注いだ量の半分を飲み終えた頃、ソファに深く座っていたガイアが首をだらんと後ろへ傾けクリスたちを逆さまに覗き見た。

 その格好そそるわぁ、と悪ふざける教皇を無視し、ガイアは素の顔で言う。

「まさかここに覇王が居るとは知りませんでしたよ。まぁ、夜な夜なこそこそと出かける教皇を見て簡単に分かりましたが」

「ははは、ガイア君ってばホント恐い子だね」




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あきゅろす。
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