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30話 帰郷05

 どうして彼女がここにいるんだろう。

 それはコウとサラの両方に言えた。サラにとってこの屋敷は実家。家に帰ってきた途端にコウが居るのだから驚いて当然だ。
 コウにとってもこの屋敷、と言うよりはヘルト達は自分を保護してくれる一族。これからどうしようかと思っていた最中に何故かサラがやって来た。それはそれでびっくりだった。サラは混乱状態に陥りながらも言葉を放つ。

「ど……どういうこと……?」

「どういうって……サラこそ」

「ここは私の実家よ! それより貴方どうして……この間機関の事務局に問い合わせたら“除名”って言われたわよ?」

「除名!? 私が!?」

 事実を聞かされたコウは、思わずヘルトを見た。説明をして、と言わんばかりのコウに対し、彼も一つ息を吐く。

「まあ恐らく……帝国の世話焼きさん達がやったのかな」

「そんな事……聞いてない」

「でも実際、もう必要ないだろう? コウさんは軍人になりたくて機関に入った訳ではないんだから」

 それはそうだが……全てが誰かの手の上で踊らされている様で、いい気はしなかった。

「そんなの卑怯だわ。コウの人生を勝手に決めるなんて!」

 詳しい事情は知らないにしろ、サラは帝国の勝手な行動を許せなかった。自分の為に怒ってくれる人間が居るという事が、少し嬉しかった。

「うん……ありがとうサラ。でも、ティレニアに行けたのは私の力じゃないから……だから辞めさされても文句は言えない」

「コウ……」

 サラは納得のいかない顔をするが、コウの目に静かな憤りを感じた。

「でも、これから先は自分で切り開く。誰にも邪魔させない」

 それは確かな決意だった。

 見た目はまだ幼さ残る普通の娘。けれど密かに見える激しい感情を知り、ロウベルトでさえ気圧されていた。カナリアは……初めて目にする精霊の王─アムリア─を、ただその目に焼き付ける事しか出来なかった。歳は自分より下なのに、確実に地に足を付けて歩んでいる。いつまでも父の事を気にして流されながら生きてきた自分とは、次元が違った。

「お兄様、私は……どうしたらよろしいのですか?」

 沈黙を破ったのは、サラの不安げな一言だった。

「今までお兄様の役に立ちたくて、軍人になって軍内部に侵入出来ればと思っていました。けれど……」

「サラ、自分がしたいと思う事をしなさい。軍人になりたければ構わないんだよ」

「ですがっ……それではリュートニアが公になります! そんなことっ」

「大丈夫だよ。サラがやりたいようにさせたいんだ。私も、母上も……」

「お兄様……」

 サラ達の事情はよく知らないが、サラもヘルトさんもお互いを思っている事は分かった。私には無いものを、二人は大切にしている。

 ──この世でたった二人の兄弟。

 ヘルトの目が違っていた。自分に向けるものと、サラに向けるものの視線の柔らかさが……血縁かそうでないか、家族かそうでないかを無意識に分けていた。

「……少し、頭を冷やしてきます」

「サラ……」

 こんなに元気の無いサラは初めてだった。どう声を掛けていいものか迷っていたが、サラは力無く私に笑いかけた。

「コウ、いきなり取り乱してごめんなさいね。少し、整理してくるから」

「あ……うん……」

 曖昧な相槌を打つ私。気の利いた言葉を言えない事が歯がゆかったが、今はどうしようもなかった。

 サラは静かに寝室を出る。その後を追う様に、カナリアも部屋を出て行った。


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あきゅろす。
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