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27話 歌姫

 −遥か天を仰ぐ風の息吹

 駆け巡るは幸せの唄

 森の生命を木霊に宿し

 祈りは遠く遠く響き渡る−


 27話 歌姫 


「街に出るだと?」

 暖かい太陽の日を浴びた町の一角で、ゆっくり朝食をとっていたフレアンの耳に、おかしな事が聞こえてきた。

「だから、街を見てくるって言ったのよ。いいでしょ?」

 一呼吸置いてフレアンは立ち上がり、コウの目の前に立ち塞がった。

「いいわけないだろ、よく考えてから発言しろ」

「なんで? いいじゃない、少しぐらい」

「駄目だ」

 フレアンは険しい顔をしながらそう言った。前々から思っていたが、フレアンさんは少々過保護すぎると思う。

「あのね、こんな昼間から何かあったりしないわよ」

「昼の真っ只中に海賊船へ乗り込んだのは誰だったか?」

「えっ……それは……過去にばかりこだわっていては駄目よ!」

「君は少し学習した方がいい」

 彼には何を言っても無駄だった……。コウは諦めようとしたが、意外な人物からの助言が入る。

『少しくらいは良いだろう。もう私の力が及ばない所は殆ど無いのだから』

 そう言ったのは黄色の可愛い小鳥、フェザールーンだった。何の事を言っているのかよく解らなかったが、コウは「そうだよ!」と被せる。

『……それもそうですね』

 と、カルロがあっさり承諾した。それには私も驚かざるを得ない。勿論フレアンも小さく声を漏らした。

『確かに今のルーンなら……この町の中くらいなら任せても問題ないでしょう』

「やった! ありがとうカルロ! じゃあ行ってきまーす!!」

「あ! ちょっと待……」

 フレアンは止めたが、止められなかった。そして無責任な事を言うカルロを激しく睨んだ。

『そう……睨まないでください。何も根拠のないことではないのですから』

 それを聞き、フレアンは少し目の力を緩めた。

「どういう事だ」

『ルーンも言っていたでしょう、“自分の力が及ぶ範囲はない”と。勿論そこまで確実なものではないが、我々が駆けつけるだけの時間稼ぎくらいは出来るでしょう』

「それは……信じてもいいのか?」

『あなたの付けたブルーレース、あれはもうフェザールーンの体には一欠けらも残っていません。船上での戦いで彼女が封印を解いた際、一緒に取れてしまったようです。普段と変わらない姿をしていますが、今の彼女は恐らく私より強い』

 事実を聞かされ、フレアンは漸く睨むのを止めた。あのカルロがそこまで言うなら……と、フレアンも納得したようだ。

「それは解ったが……何故お前も一緒に行かなかったんだ?」

『私は今から少し行く所があるので……昼頃には戻ってきます。それまでにコウが帰ってしまったら、私の事は適当に言い繕っておいて下さい』

「わかった。だがまぁ……コウが早く帰ってくるなどあり得ないと思うがな」

『……それもそうですね』

 呆れたように言うカルロは、その身をふわりと浮かせて窓から出て行った。


「しばらく一人か……」

 一人なんて、今までのフレアンにとっては日常だった。だが最近は誰かと過ごす事の方が多くなっていた為、一人の時間をどう使っていいか判らない。慣れない感覚に少し戸惑いながらも、心の中は確実に満たされている自分がいた。

「この歳になってもまだ迷うというのか……俺は」

 幼い頃から決めていた事。帝国の為なら命も惜しまないと誓ったはずなのに……今は、生きる事すら許されないこの命でさえも、惜しいと思ってしまう。

「彼女のおかげか……」

 あの時の偶然の出会いが、自分を変える運命の出会いだとしたら……今迷いながら進んでいるこの朧げな道もまた、意味があると思いたい。

 フレアンは胸に手を当て、祈るように目を閉じた。


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