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22話 海の住人

 世界はとても広い。広くて深い。

 人が住めぬ場所にも、生き物は潜んでいる。

 彼らを海の破壊神というだろうか。

 いや、彼らは紛れもなく海の恵神と言えよう。


 22話 海の住人


 商船に乗って一夜明けた今朝、私は非常に悩んでいた。何にか…?

 それは、やることがない、ということだ。

 商人達はリノアの町で購入した品々を見揃え、和気あいあいとしている。コウは部屋の中で一人、商人達の歓喜の声を聞いていた。

 ここでは何もすることがない。何も出来ない。正確に言うと、「リーダーの相手」をしたくない為、逃げているとも言える。

 表に出れば、商人達の哀れみの視線が痛い。ヤツに見つかれば何されるかわかったもんじゃない。

 この商船の船長−ユーリック−は、目利きの才能も優れており、人望厚く運も強い、最強で最高の海の男と聞く。

 だがそんな彼にも欠点があり(本人はそう思っていない)、それは彼が同性愛に執着している事。

 私もまた、そうしてユーリックの餌食となった「少年」の一人だ。こんな簡単な男装なんてすぐバレると思っていたが、結構いける。

 ……と、喜んでいる場合ではない。今はなるべく部屋から出ず、ひっそり上陸の時を待つのみ。

 そんな時、突然部屋の扉が開いた。コウは肩をびくりと震わせたが、瞬時に愛剣に手を伸ばす。が、とんだ思い違いで、ただの部屋掃除のおばさんだった。

「はいはいっどいとくれ! 掃除の邪魔だよ!」

 元気のいいおばさんは、そう言いながらズカズカ入ってきた。こうまでされてはどうにも出来ない…そして明らかに仕事の邪魔になる。

 コウは剣を布に包み直し、腰に挿して部屋を出た。



 廊下で、昨日案内してくれた商人に会った。彼はこちらに気付くと笑顔で「おはよう」と言ってきた。

 コウもあいさつをする。

「あの、何かやることはないですか?」

「え? まぁ特には何も。というか君はリーダーのお相手だろ」

「え!? いや、昼間からはちょっと(夜でも絶対嫌だけど)」

 コウが暇であることが解ったらしい。だが、本当に今は特に何もない。
 大陸に到着すれば忙しくもなるが。

「甲板から海を見ておいでよ、すごく綺麗だからさ」

「海……」

 そういえば、ずっと船に乗っていながらも、海をじっくり見ていなかった。
 海賊船に侵入したり戦ったり……戸惑いの連続だったため海の事なんて頭になかった。

 コウは商人と別れ、甲板へ向かった。



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あきゅろす。
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