20話 港町リノア
『契約精霊が契約者の武器に定着することはよくあることです。そうなった場合、他人が精霊の姿を見ることができなくなります』
「え? でもクリスさんはシルバーレイの姿が見えてたよ? まぁ…泥棒には見えてなかったけど」
『コウ、あなたが思っているほど精霊は人間と親しくないのです。人と交わるのは幾億といる精霊の中の極一部だけです。そして、彼女にシルバーレイが見えるのには訳があります』
カルロの言葉にコウは頭を悩ませる。クリスの特別なところはなんだろうか。コウがうんうん唸っていると、フレアンがそっと助言した。
「クリス司祭はアモン教皇のパートナーだからだ。何年も共に戦ってきた者同士、互いの精霊を見ることができるのだろう」
“パートナー”
二人が「最強コンビ」と呼ばれていたのは聞いたことがある。
『人間と精霊は、姿は違えど本質は同じなのです。どちらにも心…複雑な感情があります。違うところといえば…精霊は自由な身であり、人間は自由に飛んだり隠れたりできないことでしょうか』
「本質は…同じ?」
『人間…といいますか、生物はみな、その存在を確かめることができるでしょう。けれど、精霊は触れることすら出来ない』
人間は自由を失くす代わりに、命の重みを知る。だが精霊は自由を得る代わりに、その存在の意味を失う。本質は一緒。だけど、全く違うもの。
「精霊にも人間にも心はある。心で通じ合えば、姿の有無は関係ない。クリスさんにシルバーレイが見えるのは、長い月日の中でお互いの心を通わせているから…ということ?」
コウの言葉を聞き、上手く伝わった様だとカルロは安堵した。姿が見える、見えないは、簡単に説明できることじゃない。
『精霊の存在を信じているか、それが大事なことなんです。さあ、コウ…私の肩を見てください。精霊が見えるでしょう?』
「…え…?」
チカッと小さな光が弾けたのは、カルロの右肩だった。そこに精霊がいるのだろうかと見ていると、段々と白くて丸い形をした精霊が浮かび上がってきた。
「見えた…!」
『ええ。では、そこには?』
カルロが微笑みながら差した先の地面に、茶色の猫のような形の精霊が、その向こうには羽を生やした精霊が現れた。いや、現れたんじゃない、彼らはずっとそこにいたのだ。
「すごい…」
不思議な感覚に身を任せながら、彼らの存在を信じようとしてる自分を感じる。今なら、アモン教皇が言っていた事も理解できる。初めて会ったとき、「君には精霊が見えるはずだ」と言われた。見えないと言い返すと、それを不可解そうにしていたが、急に「ああ、だからか」と納得してしまった。
おそらく彼は、コウが精霊の存在を信じていないと解っていた。いくら精霊の王であっても、精霊の存在を信じていなければ能力を生かすことはできない。
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