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20話 港町リノア


「ところで、こいつは嬢ちゃんのイイ男か?」

 魚売りの男はにやけながらそう言った。
 イイ男とは誰の事だと振り返ると、そこにフレアンが居た。

「ああ、彼はそんなんじゃないよ」

「そうか? 似合いだと思うがな」

 男は人事なので適当に言っているだけなのか、常に笑いながら親指を立てて「本当は、コレなんだろ?」と言う。

「違います。むう」

 その手の話しになるとフレアンは途端に拒絶を示すのだから止めて欲しい。

「どちらでもいい。コウ、もう行くぞ」

「わわっ、ごめんなさい!」

 自分が寄り道していたのだ。悪いのは私ですと言わんばかりの形相で彼を追いかけた。

「あ、おじさんいきなりごめんなさい。話しに付き合ってくれてありがとう!」

「いやいや、この町に来る事があったらまたおいで」

 男は姿が見えなくなるまで豪快に手を振っていた。
 それを最後まで見届けようとしたが、既にフレアンが近くに居ない事に気付き、慌てた。

「どうしよう! ルーン!」

『慌てなくても大丈夫だ。すぐそこに居る』

 空に向かってルーンを呼べば、彼女は呆れた様子で姿を見せた。

「よかったぁ、早くいかなきゃ」

 またなじられる、と呟いて走り出した時、前を行く誰かにぶつかってしまった。

「すっすいません!」

 こちらが咄嗟に謝ると、向こうも振り向いた。

「ああ、こっちこそ悪かっ……お、女ぁぁ!?」

「え! はいっ……え?」

 振り向いたと思ったら、いきなり大声で「女!?」といわれた。
 どういう意味だろう。今の格好は明らかに女なので、間違えたとかじゃ無いと思うけど。

「女が俺に近づくんじゃねぇよ! さっさと消えろ! この遊び女!」

「んなっ!」

 いきなり怒鳴られ、遊び女(メ)とか言われ、言葉が出てこない。
 こんな全っく知らない男の人に、何で怒られてんの?
 そうやって私がが問答している間に、彼はさっさと行ってしまった。
 その後姿を見ながら、一言。

(何じゃあいつはーっ!!)

 小心者ゆえ、決して声には出さなかったが。

 腹が立ってきて、遠ざかる茶髪男を激しく睨んでやった。

「ああ? 居ないってどういう事だよ」

 ところが無作法茶髪男は何かに怒っている様だった。
 それはなにやら怪しい店の前でのこと。
 茶髪男と化粧の濃い女が言い争っていたが、どうせ痴話喧嘩だろうと目を反らそうとした。

「何で居ないんだよ? 俺は若いのしか興味ない!」

「注文多いんだよあんたは。粒ぞろいの娘が沢山居るっていってるだろ?」

 煙草をふかす女は壁に持たれて面倒そうにしていた。
 彼女の発言から、その店が夜の商売関係だろうと容易に考えられたが、茶髪男の発言は大いにコウに衝撃を与えた。

「だから、十代半ばの少年は居ないのかって聞いてるんだよ!」

「何度も言ってるけど、ここは女オンリーの店! 性変態は他所へ行きな!」

 痺れをきらせた女は強く扉を閉めた。
 その戸に向かって怒鳴りつける茶髪男はかなり必死だった。

「そんなに同性がいいのかな」

 馬鹿な事を呟いてしまったと反省し、宿で待つフレアンの元へと急いだ。



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