19話 旅の始めに
目の前に立ち塞がる高い壁を見上げながらコウは言った。
「何言ってんの？ 無理無理」
『そうですよ、私達はともかくコウには危険です』
「お前が手伝ってくれれば問題は無い」
彼が本当に問題なさそうに言うから錯覚してしまう。
確かに彼なら造作ないだろうし、カルロだって普通に飛んでるから関係ない。
私もルーンの守護を使えばいいのだが、気になる事があった。
「なんかね、ルーンの守護が弱くなったみたいなの。どうしよう」
「心配するな、カルロが蔓を出してくれるから」
『何勝手に言ってるんですか、私は誰かさんの所為で思うように力が出せません』
「カルロまで、何かあったの？」
不安げに眉を寄せるコウに、カルロはしまったという顔をした。
精霊の弱化、または強化はアムリアに伝染する。
『いえ……はぁ、判りました。コウ、体にツタを巻きつけますからしっかり持っていてくださいね』
質問には答えてくれなかったが、この壁を越えられるなら良しとしよう。
コウは壁の前に立ち、カルロが垂らす蔓を必死で掴んだ。その途端に蔓が体に巻きついた。
「びっくりした！ カルロ器用だね」
『舌噛みますよ』
褒めると照れて冷たくなるのでこれくらいにしておこう。
蔓にしがみつくと、体が浮いて高い壁の上まであっという間に辿り着いてしまった。
「わー高い高い！ ちょっと恐いけど」
『ゆっくり降ろしますから掴まっててくださいね』
カルロは器用にツタを降ろし、ゆっくり着地出来た。籠もそう揺れなかったのでルーンを起こさずに任務完了だ。
壁の向こうは意外にも平原が続いていた。所々道があり、それに沿って進んでいくと港町へ行ける様だ。
平原を見渡している所に、カルロも降りてきた。
「フレアンさんも手伝ってあげなよ」
『彼には必要ないですよ』
「え、でも」
こう高いと跳ぶのも大変だと思い、壁を見上げた。
見上げた瞬間に上空を何かが通った。
高い高い壁の向こうから黒い影が飛び込んできて、そのまま落ちてくる。
あの高さから落ちたら半端ないだろうと慌てたコウだったが、そんな心配は取り越し苦労に終わった。
次の瞬間、黒い影は綺麗に着地し、必要以上の音は出さなかった。
普通ならもっとドサァとかバサァとか酷い事になりそうだが、靴が地面に擦れる音しかしなかった。
フレアンは着地の衝撃を抑えるために屈めた体をスッと伸ばし、体制を立て直す。そして何事も無かったかのようにこちらを向いた。
「だから、フレアンさんは何者なんだよ」
誰にも聞こえない声で、そう呟いてしまった。
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