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19話 旅の始めに


 随分先を歩いていく青年に追いつこうと、コウは少し早足で歩いた。

「……ああ、済まん」

 振り向いたフレアンは歩幅の違いに気付き、申し訳なさそうに速度を合わせた。
 思わず綻んだ顔が気に入らなかったらしい。

「なんて緩んだ顔してるんだ。遊びに行くんじゃないんだぞ」

「あはは、ごめなさい」

 呑気な奴だな、と軽く呟いた。

 だが彼だって、これから暫くはコウと一緒にいられるのだ。気持ちが高まっても何ら可笑しくは無い。

『さっきの、一体何者でしょうね』

 隣をぽてぽてと歩くカルロがそう言った。
 ふとフレアンに目を向けると彼と目が合い、笑ってみる。

「関係無いとは思うが、用心するに越した事は無い」

『そうですね。それよりどこへ向かっているんですか?』

「ああ、西だ」

 抽象的すぎて全く判らない。カルロは話すのが面倒になって、ついに黙ってしまった。ルーンは相変わらず籠のなかでスヤスヤだ。

 あまり人目の付かない場所ということなら、以前丁度いい隠れ通路を利用した事があった。

「もしかして、地下通路通るの?」

 問いかけて、彼が知らない可能性もあるんだと気付いたが、フレアンは逆に私が知っていることに驚いているみたいだった。

「いや、そこを通ると東側に出てしまう。港町へ行くには逆方向になるからな」

 今明らかに何か言いたげだった。けれど彼の頭の中で結果が出たのか、地下については触れてこない。
 ならばこちらから、と意気込んでみた。

「ふーん、確かに地下通路はフィナ町に続いてるもんね。昔の隠し通路みたいなもんなのかな?」

 ちらっと彼を見たが、答えに困っている様だ。

「何の為の通路かは知らないが、あまり良いものではないだろうな」

「何で? 何ともなかったよ?」

「見たのは大通路だけだろう。あの奥には、何か異様なものがある気がする」

 フレアンは口を閉じた。前髪が掛かって目元辺りは見えないが、全身から重い気配が現れていた。

「異様なもの……?」

『……』

 ふとカルロを見ると、可愛らしい目は僅かに細められ、何を話そうともしない。

 しんと静かになったこの雰囲気が耐えられなくて、私は小さく鼻唄を歌ってみた。

 そうこうしている内に壁が見えてきた。一言に壁といってもかなり高く、ざっと五、六メートル。四階建てくらいだ。

 フレアンは壁の前でピタリと止まり、私とカルロは彼の後ろに着く。
 彼はこちらを向いて、一言。

「ここを越えよう」



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