18話 西国
その夜、
城での初のお披露目となったクルーバード劇団の芸は、城の人間に大変評判が良かった。昼間は怒りを抑えていた団員も、芸が認められて喜んでいる。
団員は皆城の豪華な食事に呼ばれた。しかしセンは城の食べ物が体に合わなかったのか、気分が悪くなったと言って、一人庭に出た。
今日は三日月……
赤みがかった淡い色合いが、センの気分を落ち着かせた。
しばらく涼しい風に当たっていると、後ろで人の気配がした。振り返って確認する。食事をしていた部屋とは庭を挟んで反対側の部屋に、誰かいる……。
部屋の明りは消されていて、誰なのかはっきりしない。薄いカーテン越しに見えるその姿から、男の人であることは分かった。
「どなた ですか?」
センは恐る恐るたずねる。
すると、闇に隠れたその人は、姿を見せないまま答えた。
「この城に住む者です。今回の事、気の毒に思います」
「あなた、城に仕えてる人なのね? でも……今回のは王様の命令だもの。仕方ないわ」
「私の力が足りないばかりに……申し訳ない」
「どうして貴方が謝るの? これは王様が決めた事でしょう?」
男は黙ってしまった。それにしても、この人の声……どこかで聞いた覚えがある気がする。
――思い出せないなぁ。
「私達はね、色んな人に私達の芸を見て欲しいの、そして、沢山の人が喜んでくれたら……他には何もいらないのよ」
センは穏やかな笑顔でそう語った。男は何かを言おうとしたが、やめてしまった。
「君が、そう思うなら……。けど、必ず君達を自由にしてみせる」
「……優しいんですね……ありがとうございます」
センはそう返すと、皆の所へ戻った。
男はカーテンから姿を現す。そしてセンの方を遠くからずっと見つめていた。
「このような所におられましたか、エクサ王子」
「……セーラ、何かあったのか?」
「いえ? ミルト様が寂しがっておられるので、お話相手になってあげてください」
「君が行けばいいだろう」
「私は侍女ですよ!? まったく……ここは親子そろって妙に庶民くさいんですから……」
セーラは少々怒りながら王子を奥へ連れ戻した。
月は語る、
何千年の時を越えて。
神に愛されし子よ、
傷つき疲れ果てた者達に、
安寧の一時を与え給え。
第4章18話「西国」[完]
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