17話 約束 ドナーの元に駆け寄ったリナは、目前に迫るグレイドに一瞬恐怖で固まった。 だがそんな場合ではない。 恐怖を押し殺しぐっと歯をかんで気合を入れると、瓦礫に挟まっているドナーの足を引きずり出した。 「ああっ……出れた……!」 「さぁ、早く逃げましょう」 2人が立ち上がった時、既にグレイドは攻撃の準備をしていた。振りかぶった大きな爪がもうそこまできている。 この攻撃だけは逃れられないと感じ、リナは防御強化の魔法を唱えようと杖を構えた。 まさにその時だった。 背中を何かに突かれた気がして、体が前のめりになる。 倒れ込む寸前で踏ん張って何とか体勢を持ち直した。 だが、リナはグレイドの攻撃範囲に入ってしまった。 闇族の目は人を魅了する。 悪に染められた心ならば心地良く感じるかもしれない。だがリナは真に純粋な少女だった。 置いて行かれた。 犠牲にされた。 今から与えられる鈍い痛みよりも、自分を置いて去るドナーの背中が苦しかった。 誰も私を呼んではくれない。 誰も私を助けはしない。 瞬間、真っ白なシスター服が深紅に染まった。 寧ろ痛みは感じなかった。 右肩から腹部にかけて大きな斬り痕が残り、じわりと血が滲む。 振り下ろされた爪で撥ね飛ばされ、地面に打ち付けられた体に痺れが走る。 既に意識は朦朧として、周囲から駆け付けて来る救護班の声も遠く聞こえた。 最後に見た、ドナーの背中が目に焼き付いて離れなかった。 ←前へ|次へ→ [戻る] |