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16話 騒動


 12時00分

 古時計の針は少し遅れて真上をさす。カチリという音と同時に、宮殿中に鐘の音が響き渡った。
 日付が変わる。今日の朝には港町に向けて出発しなければならない。
 私は静かに息を吐いた。

「フレアンさん。約束、覚えてますか?」

「ああ」

「あれ、ちょっと変えてもいいですか?」

 突然の申し出に、思わず「ああ」と言ってしまった。それを聞いてコウは嬉しそうに笑う。

「なら、フレアンさんの秘密、教えてもらわなくていいです」

「え?」

「その代わり、他の事で一つお願い聞いてください」

 拝むように両手を合わせ、必至に懇願するコウ。フレアンがそれを無下に扱うだろうか。そんなことはありえない。当然「いいよ、どうした?」と言ってしまう。
 傍で二人の会話を聞いていたカルロは、コウの事だ。だいたいの想像はつく。ダイスも先ほどから仲睦まじいコウとフレアンの様子を微笑みながら見守っていた。

「今日西国に向けて出発するんです、だから一緒に来てください」

 コウは有無を言わせない笑顔で「ね?」と聞き返す。突然「西国に」と言われても、フレアンは何の事か判らない。そこをダイスが中に割って入る。

「西国のリュートニア家当主から先日招待状を受け取ったのです。コウ様お一人だけでは心もとない。貴方に付いていただけるとこちらとしても助かりますが……」

「そういう事だったのか。だが……今日の朝、とはまた急だな」

「無理なの?」

 コウはちょっと怒った様に、また悲しむ様にフレアンを見つめる。

「(断れるわけがない……)」

 フレアンは自分が損な性格だという事に気付いた。だが、焦らず、迷わず……

「君を一人西国へ行かせるわけないだろう、私も共に渡る」

「あ! 『私』に戻っちゃった」

「……変か?」

「ん――、『俺』の方が格好いいけど、『私』の方も似合ってるのよね。困るわ」

「君が困らなくても……」

 本当に……このお気楽な性格は一生治らないんだろうな。フレアンは心の中でそう思った。そしてそれは見事的中し、これから先、彼を困らせる原因になるのだが――
 それを確信する日は、まだちょっと先のお話……――。


「(俺の損な性格も一生ものかもしれない)」


 16話「騒動」[完]


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