16話 騒動
一向に姿を見せようとしない。
布団の端から見えるフリルに少々戸惑いながらも、フレアンは声を掛け続ける。
「コウ、そんな所にいつまでも居ないで出てきなさい」
「いや」
「どうしたというんだ……?」
「知らないっ!」
こんな会話が暫く続いたが、状況は平行線。コウらしからぬ行動にカルロも驚いていた。
普段のコウは結構ドライだが、今の彼女は少しワガママになっている。
何に対してもあまり甘えを見せないコウが、こうも嫌がるのは何故だろうか。
それは、見られたくないから。
──どうして?
似合わなくて恥ずかしいもの。
──彼にも?
彼、だから……。
このままではいつまでたっても終わらない。もう夜も遅いので、遊んでる時間もない。
そう感じ、フレアンは布団をひっぺ返した。
「やだってば! バカバカ!」
「いい加減にしろっ……いったい何だと言うんだ」
「見ないでったら──っ!」
コウの抵抗も虚しく、包まっていた布団は見事に奪い取られた。
柔らかな羽毛布団から現れた姿に、多少の苛立ちを含んでいたフレアンの口元が大きく開いた。
予想外なコウの姿を見せられて、頭の中が真っ白になったのだ。
「……コウ?」
淡い赤に身をまとった少女。
俯いていて表情は良く見えない。
相変わらず目線は下を向いたままだが、少し紅葉しているのが分かった。
コウの体を覆うシルクの寝着がさらりと肌を滑り落ち、白く細い足が見える。
裾から黒のレース、袖は腕の肌色が透けて見えるベール状のもの。
「……すごいな。お姫様とは正にこのこと──」
「からかわないで!」
フレアンは思ったことを素直に言葉にしたつもりだった。
だがコウが怒ってしまったので、機嫌をとるように必死で言い訳する。
「いや……よく似合ってる」
「似合ってなんかないわよ!」
が、逆効果になった。
困り果てたフレアンは、カルロにも助けを求める。
他ならぬコウの事なので、カルロも協力しない訳にはいかない。
『全く……何故そんなに嫌がるんですか? 大体その服はどこで拾ってきたんです』
「知らない女の人達に無理矢理着せられたの! 宝石いっぱい付けられる前に逃げてきたんだから!」
『そうだったんですか。そんなに気にせずとも、それくらい見慣れてますから』
「……え?」
何を言いたいのだろうか……と、フレアンはしゃべる狸を見た。
カルロの目は明らかに何かを企んでいる。
自然と冷や汗が出たが、それは決して気のせいではない。
『上流階級の人間なら大人も子供も老人も皆派手な服を着て普通に生活しています』
「うそよ、おばあちゃんがドレスなんて信じられない」
『本当ですよ。そこの彼だって、いつも社交パーティで大勢のドレスを着た女性と踊るんです。気にする必要ありませんよ』
ここでまず、大勢の女性という言葉に反応する。
「フレアンさんが女の人と……?」
そうですとも! といった満面の笑顔を見せるカルロ。
今の台詞だけを聞けば誤解されそうなものだが、フレアンもといリセイにとってのパーティーは社交辞令、言わば仕事だ。
彼の職業や事情を知らないコウには、当然知り得ないことだが。
この時のフレアンの視界は、一筋の光も射し込まない真の暗闇だっただろう。
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