15話 後夜 時間にしてみれば、それはほんの一瞬の事だったのだろう。けれど私には果てしなく長い時間の様に感じた。それほど彼の腕は暖かく、きっと生まれて初めて永遠を望んだ。 この時がいつまでも続けばいいと…… 「コウ……」 フレアンの低い声が耳元を触る。それはとても心地よくて、「声もイイ」……などと思ってしまった。絶対に口には出せないが。 「コウ、何かされたのか…?」 声はすごく好みなんだけど、今のはちょっと恐かった。優しく聞いてくれてるはずなのに、その返答を強制されている様で……。黙っていては何にもならないので、素直に答えた。 「特に何も……腕つかまれて押し倒されて、ちょこっと服破けたくらいかな」 明らかに彼の表情が強張った。それは私にも判ったのだが、あえてどうする事もない。ここにいる男共の事など、大して興味はないのだから。 ただ、こんな奴らの為に人殺しをして欲しくなかったので、再度「大丈夫」だと念を押した。 「君がそう言うなら、後は他の者に任せよう……」 そう言って、フレアンは何かの合図を送る。すると茂みの中から黒服の男が数人現れた。その速さは思わず恐怖を感じてしまう程だ。 呼び出された黒服兵は、ナティア族を瞬時に気絶させた。瞬く間に男共はドサドサと倒れていく。その光景は明らかに尋常ではなかった。 黒服兵の中から、リーダー格の者が一歩前に出て、敬う様にフレアンの前で膝をつく。その行動に驚いたコウだったが、フレアンは動揺をみせない。まるでこうするのが当たり前かのように……。 「この者達の処分は如何程になさいますか?」 「殺す事もないだろう……第一コウが其れを望んでいないからな」 「ではこちらで適当な処分を下しておきます」 「ああ、任せた」 少し頭を下げ、そのままスッと後ろへ消えていった。他の黒服兵や、気絶させられたナティア族も居なくなっている。 何が起こったのか、何から聞けばいいのか判らない。考えようとするんだけど、彼の胸の中で思考がまとまるはずが無い。 もう今は何を考えても無駄だな……。そう悟り、静かにその腕に身を沈めた。 静寂が二人を優しく包む。 月はやがて二人の姿を闇に隠した。 闇の子は神の子を護り、 神の子は闇の子を愛しむ。 それは不思議な事ではない。 彼らは出会っただけなのだから…… 15話「後夜」[完] ←前へ|次へ→ [戻る] |