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15話 後夜


 まさか……まさか今、彼の声が聞けるなんて夢にも思っていなかった。

「ああっ? 誰だよテメェは」

 コウに対する興味が一瞬にして声の主に集中した。
 全員の視線を浴びてもなお、動揺など一切感じ取れない声でもう一度問う。

「食事会はとっくに終了した。ここで何をやっているのかと聞いている」

「関係ねぇだろ、何してようがよぉ」

「私はここの警備を任されている。早々に自室へ戻りなさい」

 警備兵は少しも恐れる様子はなく、重々しい声でそう命じる。
 しかし、男共は一向に退く気配がない。
 そこへやって来たのが、淡い月の光に照らされて妖艶さを増す少女、ナティア。
 恐らくどこかで様子を見ていたのだろう。

「ぃいじゃない、何だって。貴方素敵ね、一緒にお話しましょ?」

「結構、君も部屋に戻りなさい」

 警備兵の反応の薄さに、物足りなさを感じた。だが、彼の物怖じしない態度はナティアにとって尊敬に値する。
 それはすなわち興味を持ったと言う事で、言い換えるなら「気に入った」と言う事。
 彼はそれを判った上で流しているのか、それは表情からは判らないが。

「冷たい人。でもそんな所もいいわね、仲良くしましょうよ」

 そう言って、警備兵の肩に手を滑らせる。
 普通の男なら、ぞくっときてしまう所だろう。

「……これでも反応なし? じゃあこれなら……」

 突然腕を引っ張られ、不意に油断を見せる警備兵。それを見逃さなかったナティアは、彼の口元に接近する。

 バシッ!

「った……何するのよ!!」

「あんたこそ何しようとしたのよ! 許さないわよ!」

「あなたに関係ないわ!」

「関係なくない!」

 ナティアと男の顔が触れる直前で、私はナティアの頭を叩き、突き放した。
 男共は皆警備兵に集中していたため、今のコウはフリーだった。
 あまりに見ていられない光景だったので、思わず手が出てしまったのだが……。

 フレアンの嫌な予感が当たった瞬間だった。
 見回りをしていた彼は、同時にコウの事も探していた。
 もう宮殿に戻っているかもしれないが、もしかしたらまだこの会場のどこかにいるかもしれない。
 様々な思考が巡る中、数人の男が屯していると報告があった。こういう日はふざけた連中が出ても仕方ないが。
 だがまさか彼女がそこにいるなんて、予想もしてなかった。



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