15話 後夜
部屋に入ってきたダイスは、コウに予定のようなものを渡した。それを見ながら、話を聞く。
「出発は明日の早です。ここから西にある港町リノアに向かい、そこで一泊して下さい。明後日の午後7時、リノアから西国への船が出ます。チケットはこれと引き換えになりますので、乗船する前に交換しておいてください」
そうして渡された引換券。彼の処理の早さには驚くしかない。
「ありがとうございます。ここに滞在している家臣って、ダイスさんのことだったんですね?」
「はい。ヘルト様はリュートニアの御当主でありますから、コウ様にとっても重要なお方かと」
「そうか、リュートニア家と精霊の王は親密な関係なんだもんね。きちんと挨拶しとかないと」
コウは挨拶の言葉なんかを真剣に考えていた。その様子に呆れながらも和やかさを感じる精霊達。
他の者からすれば、この天の間は非常に厳粛な場所。このように和やかな雰囲気であるはずがないのだが、コウがいることでここの重々しい空気も緩和され、居心地のいい環境へと変わる。
「それより、今回同行なさる方はどなたかいらっしゃるのですか?」
「え? いえ……」
ふと現実に戻る。そう言えばそうかもしれないと、今になって考えてみる。だが出発は明日。今から誰まわりに頼んでも、到底無茶というものだ。
コウは少々不安になって、カルロとルーンを見やる。だが、精霊二人は問題なさそうに平然とかましている。
『心配しなくても私達はあなたから離れたりしません』
『そうですよ、我々はコウ嬢に付いていきますから』
二人の精霊は当然の様にそう言った。それにすっかり安堵するコウだが、ダイスはまだ不安な様だ。
他に誰か暇そうな人はいないか、うんぬん考えている内に、一人思いついた人間がいた。
迷惑になるかもしれないと思うと躊躇わずにはいられないが、これからの長い旅を考えると信頼のおける人間と居た方がいい。
コウは躊躇いを捨て、即行動に移す。
「一緒に行ってくれるかわからないけど、ちょっと行って誘ってきます!」
コウは勢いよく飛び出して行った。その行動の早さに付いていけない残された者達。
カルロも跡を付けようかと思ったが、そう遠くへは行かないだろうと、コウの帰りを待つことにした。
「カルディアロス殿、フェザールーン殿、コウ様をよろしくお願いします」
『心配するな、ダイス。我らが付いている限り恐れるものは何もない』
ルーンは自信満々に答えた。この先彼女が災難の発端になることも知らず……。
←前へ|次へ→
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!