5:二次試験08 一枚の紙切れ
あの後すぐに救護室へ向かった。フレアンの足取りは重々しく、表情も怒っている感じがした。後が怖い……。
「コウ様!?」
「ははは……マリアさん、どーも」
「何て事……こんなに衰弱されて……」
「なんか体力続かなかったみたい。まだまだだねー」
「……っもう! 早くベッドへ!」
大丈夫な所を見せたくてふざけてみたが、逆効果だったようだ。マリアはベッドへと急かす。フレアンはコウを抱えたまま奥の別室へと入って行った。
++++++++++
「マリア、コウ様の具合は?」
入り口扉から声をかけて来たのは、司祭の内の一人、クリスだった。マリアの診断報告を聞くと、倒れた原因が緊張と疲労であることを知り、クリスも少々肩を揺らして安堵した。
「命に別状はないな。よかった」
「本当によく倒れる子だよねー」
クリスの肩越しに元気良く話しかけてきた男。アモンだ。その存在に気付くと、クリスはかなり驚いた様子で反応した。
「……教皇!?」
「ああ、その様子だと大丈夫そうだね」
「はい……安静にしていれば1日で回復するそうです」
クリスは一通り現状を報告すると、今度は何でここに来ているのか問いただしていた。ドラゴロスの炎が僅かに観客まで届き、大混乱に陥っていた会場を放置してきたと言う。あの場の全権を任された(剥奪したとも言う)アモンが、こんな所にのこのこ来ていいはずがない。
「真面目に仕事やってきてください!」
「あはは……妻がそう言うなら旦那はしっかり稼いできま……ドゴッッ!!
「誰が誰の妻か! とっとと行って来い!!」
コウの様子を見に来たリナとケインは、初めて間近で見る教皇に目を見張る。しかもふざけている。
「何でここにいるんだ?」
「コウさんとお知り合いなのでは?」
「まっさか、そりゃありえねぇ」
呆然と見ていると、教皇は二人の元へやって来た。身なりを正し、先ほどとは打って変わって真面目な顔を見せる。
「君達の戦い見させてもらったよ。君の腕力は我が軍にもそうは居ないな。それと君、シスター君」
「リナですわ」
「そうかい、リナ君。君の魔力は今回の挑戦者の中で随一だ。もう既に色んな軍からお誘いが来ているよ」
「ほ、本当に? よかった、私……」
「その中でも一際君の事欲しがってる奴がいるんだけど」
「?」
アモンの意味ありげな言葉を、即座に理解できないリナ。ふとアモンの後ろに立つ男に目をやる。
「余計な事は言わなくていい」
「あら、カイリ君。いたのね」
「さっきからな……」
カイリと呼ばれた重装備の男は、厳格な風貌を漂わせている。カイリの脇に控えていた男が、リナに近づき書物を渡した。
「……これは?」
「帝国特殊魔法士隊の編入資格諸々の書類です。ここを出る手続きが終了すれば即帝国の軍人として働いてもらいます。よろしいですね?」
「……あ、はいっ! 精一杯頑張ります!」
有無を言わせない、という迫力で迫られ、拒否はできなかった。それでもいい。リナの願いが叶うのなら。
男は再びカイリの後ろへ下がる。出口へ向かうカイリは、背中越しにリナを一瞥した。
「暫くの間は養生しろ」
「え……?」
カイリはリナの返事を待たず、そのまま背を向けて扉をくぐる。先ほど書物を渡した男が苦笑いながら。
「今回の試験で大変お疲れになったでしょう。無理はなさらないように、そう言っているのですよ」
「あ……ありがとうございますっ」
カイリは少し歩みを止めたが、向きかえる事はなく扉を閉めた。
リナはカイリが出て行った方をしばらく見つめていた。
その隣で、少し面白くなさそうにしているケインが居る。
「私が帝国の聖軍に? 嘘みたい……」
先ほど手渡された資格書を見て、リナは目尻を熱くさせた。
「よかったな。あんだけなりたがってた軍人になれて」
ケインの口調がいつもと違う。そう感じたリナだが、対処のしようがない。
「ケイン……さん?」
恐る恐る名を呼んでみたが、ケインは答えることなく部屋を出て行ってしまった。
不安げに扉を見詰めるリナは、彼が怒った理由が判らず困惑していた。
「若いっていいね〜。初々しい!」
「アホか。今の状況を見てよくそんな冗談が言えるな」
クリスは頭を抱え、呆れたように溜め息を吐いた。
「だって本当のことじゃないか。可愛いシスターに恋する戦士、なんて萌えるね」
「は? 意味がわからない」
←前へ|次へ→
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!