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5:二次試験06 3回戦

 コウは笑みを見せながらも、内心は次の相手への恐怖が充満していた。リナもまた杖を硬く握り、立ちすくむ。

「グルルル……」

 闇の中に二つの眼光が現れた。檻から出てきた相手は荒々しく息を吐く。

 3回戦 黒竜―ドラゴロス―

 檻から姿を現したものは、息を荒げ、鋭く眼を光らせる。大きな口に鋭い牙。真っ赤な血のような目。頭上には何本か角が立っていた。全長10m、といった所か。赤茶色の体に硬い鱗、短い手に小さく尖った爪、一応二本足で立ってはいるが、背中に大きな羽を持つ。

「何あれ、竜?」

「の一種だな。なんでこう恐敵ばっかり……」

「凄いですわ……」

 ここにいる見習い達は、恐らく初めて見るだろう。竜型の闇の精霊を総称して黒竜というが、その中でも獰猛な部類の精霊、現在未開の北大陸にのみ存在すると言われるドラゴロス。あれでもまだ小さい方で、子供の竜だ。大人の竜ならこの数倍の大きさになる。

 それでも、まだ見習いである彼らにとっては到底敵わない相手なのであった。

「おらっ! 行くぜ!」

 ケインが切りかかる、が、鱗の硬さは尋常ではなく、跳ね返された。

「何だあれ! かってぇ!」

 リナは攻撃強化とプロテクトの同時がけをするが、それが精一杯だ。先ほどの死族との戦いでとっくにオーバーワークなのだろう。コウも懸命に打ち込んでいたが、まったく傷一つつけられない。

(表面が硬すぎる。あれをどうにかしないと……)

 コウは考えていた。あの鱗を維持するのに、どれ程の労力を費やしているのだろうか、と。あれだけの衝撃を無効化するほど……。なら竜から力を奪えばどうなる? 生命維持が優先され、当然表面の強化なんかは緩くなる。そこを狙えばあるいは……

「リナ! 逃げろ!」

「――っは!」

 ケインの叫び声に気付いたコウは、咄嗟にリナの方を見る。その時既に黒竜がリナに向かって襲い掛かっていた。

「リナ!」

 先に気付いたケインよりもコウは早く辿り着き、黒竜の前に出る。黒竜は大きく息を吸い込み、勢い良く巨大な炎を吐き出した。

 ――ゴォォォ!

 目に前に迫り来る炎に、どうすることもできない。ただ後ろにいるリナだけは護りたい。その一心で、リナを突き飛ばした。

「コウっ――!」

 ボゥッ!!

 巨大な炎の渦がコウを囲う。周りにいる人間すら、息苦しい状態だった。突き飛ばされたリナは、懸命にコウを呼び続ける。……が、返事はない。

 コウは炎で少し喉を焼かれ、叫べない状態だった。

「っ……は…はぁ…苦し……」

 とっさにリナが、魔法耐性のバリアを張ってくれたのだが、今のリナには余り力が残っておらず、それはかなり弱いものであった。周りを炎で取り囲まれ、身動き取れない。周囲の温度が徐々に上昇し、体が焼けるように熱かった。

 クリスはおもむろに立ち上がると監視室から飛び出した。傍にいた試験官が止めようとしたが、無駄に終る。

 クリスに続いて、アモンも席を立った。さすがに焦る試験官だが、アモンは至って穏やかな笑顔を見せる。

「ちょっと失礼するね。ここは君に任せたよ」

 そう一言放つと、アモンは颯爽と部屋を出て行ってしまった。
 訳が分からない試験官達はただ2人の行動を見ているだけだ。

「な、なんだぁ? あんな俊敏な教皇初めて見たぜ」

「もしかして今試験受けてる奴のことじゃないか。三回戦、苦戦してるみたいだしな」

「でも、死にはしないだろ? 荒れているにしても試験に使う精霊はある程度こっちで慣らしてある。手加減すれば大丈夫なんだろ」

 適当な口振りで言う試験官に睨みをきかせたのは、後ろでじっと試験を見ていた男で、彼は赤い派手な甲殻を身につけていた。

「な、なんだお前は? さっきからこっちを睨んで」

「それは私に言っているのか?」

「ほ、他に誰がいるんだよ」

 試験官は手に汗して反抗したが、言葉は思うように出ていなかった。

 甲殻の男は厳かに言う。

「手加減など出来ない」

 一拍置いて、更に続けた。

「意味が分からないか? こちらの調整がきかない相手だ、と言っている」

「ド、ドラゴロスは毎年試験に出してるし、ち、力の加減も自由にしているが……」

「我々の制止がきかないほど、あの戦士は精霊に影響を与える。だから手加減出来ないと言ったんだ」



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あきゅろす。
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