5:二次試験04 1回戦
聞いていれば笑いごとではないが、周りの監督官も耳を傾けていた。そうやって話している最中、ふと痩せっぽっちの剣士が目に入った。
「あの剣士は初めての試験か」
「見ない顔だな、おい、一次の結果、出てるか?」
彼らの仲間と思われる男が、要求された資料を手渡した。
「受験番号5百……546番!? 随分遅いな。弱いのか?」
「あの剣士をなめてたらド肝抜かれちゃうよ?」
突然親しげに話しかけられ、試験官が振り向くと。
「アッ! アモン教皇!!」
監督室内は一瞬騒ついた。アモンは周囲を静止させると、空いている席に腰掛けた。
「いやー、今年の本試験も最後のチームになっちゃったね」
「は、はい……しかし」
「まぁ見ておいで、そのうち判るよ」
アモンの言葉の意味を理解できない試験官だったが、それをこの後思い知らされることになる。
「コウ、最初の巨大闇族は二手に分かれて撹乱させてから一気にやるぞ」
「了解」
当初の作戦を確認しあった二人。リナは当然二人の回復と補助だ。檻の開く音が響く。
1回戦の相手は巨大な獣、グレイド。気を抜けば一撃で意識をもっていかれる。
「角と爪が危険なんだ、絶対当たるなよ!」
「分かった」
ケインはそう叫んだ後右側へ、コウは左側に走り出した。グレイドは狂乱しながらひたすら暴れ続けていた。リナは常に二人同時にプロテクトをかけ、衝撃を抑える。
ケインはグレイドの近くに辿り着くと、大きく斧を振りかぶった。その風圧は並ならぬもので、離れた場所に居たコウもバランスを崩した。リナは激しくなびく髪を抑えつつ、魔法をかけ続ける。
「おらぁ!」
ケインとグレイドの激しい攻防が繰り広げられる。コウは迂闊に手が出せず、リナを庇いながらグレイドを挑発していた。そんな中リナはひたすら回復魔法をケインにかける。
「リナ、後がもたないよ」
「大丈夫です」
本当に、リナの魔力の強さは秀でており、すぐに深い傷も完治した。
「あ」
二人の攻防に変化がでた。ケインがコウに合図を送る。それを確認すると、コウはケインに向かって走り出した。
「何をする気だ!?」
突然の剣士の行動に、疑問をもつ試験官。アモンはじっとコウ達の様子を見ていた。
「コウ!」
「行くよ!」
ケインの声に反応するコウ。ケインは少し屈み、構えている。コウはケインの背中に飛び乗り、それを踏み台に高く高く跳んだ。
「おおっ!」
観客のどよめきが強くなった。試験管の中には身を乗り出す者もいた。あそこまでの跳躍力は高く評価される。ふわりとグレイドの目の前に現れたコウ。そのまま体を捻り、反動をつけて切りかかる。
「ギャァァァッッ!!」
悲鳴が空気を伝う。ビリビリと監督室の壁ガラスを振動させた。
「よっしゃ!」
ケインはガッツポーズをする。その間にコウは地面に着地した。
両目を切りつけられ、使い物にならなくなった目の痛みに耐えられず、混乱するグレイド。ケインは斧を手に、グレイドの懐に飛び込んだ。
「ぉらああぁぁぁぁ!」
ザンッ――
ただ一振り。その一振りで勝負は決まった。
鈍い音と酷い臭い。ケインの斧が、グレイドの喉元を一気に裂き、首が落ちたのだ。腐臭に似た、気が可笑しくなりそうなほどの臭いだ。
「ぅっ……」
リナは目を反らして口元を押さえ、吐き気を必死で堪えていた。ケインの表情も歪んだ。コウはさっと鼻を隠して避けた。
「くそ! 結構きっついな」
「うん」
勢い良く走ったケインとコウは息切れしていた。休憩する間も無く、再び2回戦は始まる。出てきたのは死族の小隊。カシャンという音が、妙に恐ろしく感じた。そしてサラの助言を思い出す。
「あれ、天の力でなんとかなるんだったよね。リナ出来る?」
「やってみますわ」
「じゃ俺らはリナの援護だ!」
ケインは死族に向かっていった。コウもそれに続く。リナが精神統一している間、コウとケインは死族を相手に時間稼ぎをしていた。
「うわ、骨だけで動いてやがる! 気持ちわりぃ!」
「ばらばらにしても駄目みたいね。粉々ならどうかしら」
コウはセーレン・ハイルに力を込め、瞬時に何度も斬りつけてみた。すると死族の腕は粉々に砕け、さらさらと消えていった。
「これは有効なのか」
それを見て、ケインも斧を器用に回転させる。死族はバラバラと崩れていくが、また元通りの形を造る。粉々にするには数が多すぎて全員を相手にしてられない。
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