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5:二次試験03 その身が砕けるまで

ケインも一応知ってはいたらしく、コウのその言葉に賛同はしなかった。

「死にきれなかった精霊、だな」

ケインが無意識に発した言葉に、ようやくコウも納得した。


「まさかこんなのまで出てくるとはね」

サラは目の前の死族を睨みつけた。彼らに物理攻撃は効かない。剣士は精々足止めくらいにしかならない。
サラは魔力が非常に高く、器用に高度な技法も操れる。契約精霊は「炎」。火玉だけでなく、火の壁や敵の周りを円状に囲ったりもできる。だが、エレメント耐性も高い死族にはその効果は微々たるものだ。

「そうだわ! レッカ!」

あることを思い出したサラが、チームのシスターを呼んだ。

「あなたの契約精霊は天よ。それなら死族に対抗できる!」

「そうなの? でも……どうやって?」

サラにそう言われても、何のことか理解できないようだ。その反応を見て、サラは最悪の状態を予想した。

「どうやってって……あなた天の力が癒しだけだと思ってたの!?」

「そんな風に言わないでよ! 知らないわよそんなの! 私は癒し魔法と武具補助の魔法くらいしか……」

「っ……そう……」

やはり。予想通りの状況に足場が揺らぐ。ここは自分がしっかりしなくちゃと、サラはぐっと足に力を入れてシスターに近づいた。

「とにかく、やってみるのよ。今のあなたなら、できないなんてことはないわ」

「……ええ」

不安げなレッカだったが、サラに勇気づけられてやる気を取り戻す。
一応やってはみるものの、上手くいくはずもなかった。その様子を見て、サラはある決断を下した。プライドの高い彼女にとって、この選択肢は非常に辛いものだろう。

「審判、棄権します」

「サラっ!」

「私は、命の方が大事なのよ」

そう言い切るサラに、チームの誰も文句は言えなかった。試験官は「不合格」を言い渡し、直ぐに死族を撤退させた。

試合を終えて、ふと視線を感じる。その先には心配そうにしているコウの姿があった。サラはチームメンバーを先に行かせると、自分は友の方へ向かった。

「サラ、お疲れ様。大変だったね」

「ええ。でもこれが本試験。軍人になるために避けては通れない道なのよ」

その言葉に、少しだけこの試験を軽く見ていた自分を恥じた。ここにいる生徒達はみんな、自分の人生がかかっている試験なのだから。

「コウ、死族に剣は効かないわ。ただ一つ“天の力”のみ有効なの」

「天の力って、精霊なのかな」

「私の契約精霊も天ですわ」

リナは難しそうな顔をする。

「やり方は分かります。ですが……」

「おい、そろそろ俺達の番だぞ!」

ケインが冷静に判断する。ここで止まっても何もならない。今は目の前にあるものを乗り越えるだけなのだから。

「行こう、リナ、自信を持って」

「……ええ!」

「気を付けなさいよ、コウ」

心配そうにするサラに、「ありがとう」と笑って見せた。

漸く本試験最後の試練だ。会場の真ん中に今、立っている。大勢の観客、試験官、軍人に己の価値を見定められている気がする。観客席では分からなかったが、凄い圧迫感だ。足が、少し震えた。



=== 監督室 ===


監督室は、特別に許された「お偉い方々」が集まる場所である。軍の隊長や、司祭諸々。毎年ここから試験の様子を悠々と見ていた。

ここにも暇そうな試験官が二人いた。

「いよいよ最後のチームだな」

「今の所、2回戦の死族に勝てたものは1チームだけですね」

結果の資料を片手に、そんなことを言いながらワインを飲む。受験者にとっては命がけの試験だが、彼らにとっては所詮、ただの余興でしかない。

「ああ、あのチームか。司祭二人に戦士の組み合わせ。司祭二人でも精一杯だったが、死族を退廃させてたな」

「所詮見習いですからね。下級死族相手でも難しいでしょう」

こうやって試験の結果を評価しながら楽しむ。これが1年に1回の楽しみと言えよう。

すると、片方の男がある資料に目をやる。コウ達のチームの過去履歴だ。

「次は、去年落ちた奴が二人もいるな」

「ああ! あの馬鹿戦士とおっとりシスター! 覚えてるよ、あの戦士、味方庇って両足骨折してたなぁ」

「シスターはメンバーが悪かったな。学年最下位の剣士二人。しかも途中で逃亡、残された彼女は一人標的にされ意識不明。もう駄目かと思ったが、なんとか一命を取り留めたんだったな」



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あきゅろす。
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