5:二次試験02 本当の恐ろしさ
甲高い声が西の会場に響いた。試験監督は「不合格」とだけ告げると、傷ついた戦士達の救命に急いだ。その場に残されたシスターは泣きくれたままだった。
「壮絶ね」
コウはそっと呟いた。東の会場でも同じような事が起こっていたらしく、傷ついた戦士と血まみれのシスターがいた。戦士を回復しようと近づいた時に、一緒に攻撃されたらしい。大量の血液を浴びて、生徒は混乱状態だった。
コウとリナは酷い惨劇に目を反らした。ここまでするのか、と。
「……う」
突然、リナがその場にしゃがみこんだ。嘔吐に襲われたらしいが、なおも我慢して弱音を吐こうとしない。
「リナ、大丈夫?」
コウの呼びかけにも虚ろな彼女を見て、ここにいてはいけない、と考える。
「みんな、私達は先に行くね」
西の会場を見ていたサラが、顔色の悪いリナを心配していたが、「私が行くから」と言って早々にその場を去った。ケインもそれに続く。
コウはリナを連れて、一先ず戦士控え室へと向かった。試験を受ける前に、ここで装備の確認や補充ができる。サラは準備が終わっていたようだが、コウ達はまだだった。
リナを椅子に座らせ、飲み物を渡す。少し落ち着いた様子を見て、リナはほっと一息つく。
「そんなんで大丈夫なのか?」
「ケイン!」
ケインの短気が出たのかと思い、叱ってしまったが、どうもそうではないらしい。ケインはリナに弱いはずだから、今の言葉もリナを思って言ったのだろう。
「俺は、嫌なら棄権しろって言ってるんだ」
「え……?」
リナは予想外の言葉に一瞬戸惑った。その反応を見て、ケインはどこか気恥ずかしそうにしている。
「こんな試験受けて軍人になっても、辛いだけだ。いやならここでやめろ。俺は一人でも行く」
「ケイン……」
これはケインの不器用な優しさなのかもしれない。チームが欠けても、残された人間のやる意思があれば試験は受けられるが、それは相当辛い戦いが強いられる。ケインはその覚悟で言ってくれたのだ。
その心が分かったのか、リナは立ち上がって真っ直ぐケインを見つめた。
「私は……やります。ここで逃げたら駄目なんです!」
リナの意思。それはそんなにも強いものなのか。恐くてもいい、傷ついてもいい。彼女をそうさせるのは、何? いったい彼女は何を信じてるの?
「リナ……うん、頑張ろう。私が誰も死なせない。約束する」
こんなにか弱いリナが、必死で乗り越えようと頑張っている。コウもある決断をした。もしこの試験で、ケインやリナの命が危ぶまれるようなら。例え精霊の王だと明かしても彼らを守る、と。
コウとリナは個室へ入り、装備の最終チェックを行っている。その間、ケインも武具の手入れをしていた。
コウが下着を替えようとした時。
「コウ、その指輪」
胸元に光るアクセサリを見て、そう呟くリナ。
「え? あっ! こっこれはっ」
「クスクス……恋人ですか?」
「ちっ……違うのっ」
「照れなくても」
「違うんだってばー!」
別室と言っても薄い板で仕切られているだけの部屋だ。声なんかすぐに漏れてしまう。ケインだけでなく、周りの戦士も聞き耳を立てていた。
着替えを終え、3人は外へ出た。会場は更に騒がしくなっており、白熱した戦いが予想される。よくよく見やると、サラが試験を受けていた。
サラのチームメンバーは、剣士とシスターと魔導師のサラ。今の相手は1回戦の「グレイド」のようだ。シスターの補助魔法とサラの炎を駆使して、剣士が獣に切りかかる。少しずつ与えた傷が、やがてグレイドの意識を奪うに至る。
「やった! 勝った!」
コウは思わず叫んだ。ケインも目を見開いて、彼らの戦いを食い入るように見ている。
喜びも束の間。すぐに2回戦が始まった。
カシャン。カシャン。
異様な鈴の音と、金属の擦れる音が響く。これは1つではなく、沢山の音が合わさっているものだ。幾多の金属音が、一斉に。
檻から白い煙が出ており、相手の姿がはっきりと分からない。だが、しばらくすると、彼らはその姿を現す。
「何あれ……」
数十体で小軍を成す部族。あれはどう見ても獣ではない。
「死族!」
死してなお、安らかに眠る事を許されない者達
「……死族って?」
「精霊が死んだ後、自然に帰らず禁を犯してこの世に留まった精霊です」
精霊が死んだ後なんて、そんなこと考えもしなかった。よく見ると、彼等には肉がない。足から頭まで骨だった。
「生き……てるの? アレ……」
「微妙だな、その言い方は」
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