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5:二次試験01

本試験の一次が終わった。思っていたより簡単で、周りの戦士も皆満足そうに会場を出て行く姿が見受けられた。

彼らは知らない。この『本試験』の真の恐さを……。


 第5話 二次試験


「こちらにいらしたのですか」

一次を終えて、昼食を取ろうと部屋に戻る途中、リナに呼び止められた。予想通り、彼女は今まで教会でお祈りをしていたらしい。
探したというリナに対して、さっきまで試験を受けていたのだと、明るく返事をした。

前試験に落ちた戦士は、それでも見習いよりは経験も多く強いので、一次の順番は初めの方にもってこられる。

リナは12番目だったという。相手は火の精霊と水の精霊の幻影で、コウが相手にしたのは闇の幻影だった。

「他の精霊のもあるんだ」

「え? もちろん」

初めて知ったような言い方に、リナも驚いた顔をした。

「これから昼食でしょう? ご一緒しませんか?」

「うん、そうする。すぐ二次始まるしね」

するとリナは籠から何やらいい匂いのする者を取り出した。それをコウに手渡す。

「これは?」

「昨日焼いておいたパンです、どうぞ」

「うわー! ありがとう!」

思わぬ差し入れに喜ぶコウ。二人は近くのベンチに腰掛けた。お手製のパンは外はこんがり中はモッチリというお約束な感じで、そこらで買うより断然美味しかった。

「うんっ、美味しい! リナはこういうの得意そうだもんね」

「よかったですわ、御口に合って……」

香ばしい香りを漂わせながら、二次に備えて色々と情報交換していた。

リナは昨日このパンを作っていたんだ。もしかして、彼女は意外に余裕なのかもしれない。

昼食を終え、二次の会場にやって来た二人。
一次試験の会場は、機関内にある野外練習場である。機関正門から建物内に続く長い道──正道──があるのだが、その両脇にあるのが野外練習場で、西と東同時に行われていた。

正道には一般観客も混じっていて、会場の一番見えやすい所では各国の軍旗と共に現役軍人が大勢並んで見ていた。
この日はどの国も部隊を派遣しており、一般客も合わせると壮絶な人数だ。

人ごみの中、コウはリナとはぐれない様にするので精一杯だった。

「凄いねー、この数」

「ええ……二度目ですわ。ここで戦うのは」

リナは去年の二次試験を思い出していた。神妙な面持で語るリナを見ながら、その心にどんな思いがあるのか知りたくなった。
……が、聞こうとした時、

「よっ! 何湿気た面してんだ?」

「ケイン」

コウはタイミング悪い男だな、と感じながら鬱陶しそうに名前を呼んだ。だが彼は気にせず話を進めていく。

「もう直ぐ二次だな、待ちくたびれたぜ」

「受かったのね、コウ」

聞き覚えのある声。一次試験の前に少し話した彼女だ。

「サラ。うん、なんとかね」

元気良く答えるコウに、サラも余計な心配だったかなと微笑む。
だがコウとサラの再会を他所に、東西とも一気に騒がしくなった。

「見て、一番最初のチームが始めたわ」

一同は東西で同時に鳴らされた、二次の開始合図を聞く。
二次試験は一次と少し違うルールだ。時間制限なし。チーム全員の死亡又は棄権で試験終了となる。

西も東も巨大な黒の獣が現れた。

−識別名称「グレイド」−

挑戦者も一般客も、間近で見る闇族に一瞬震え上がる。まだ正道から遠目で見ているだけならいい。だが挑戦者はすぐ目の前で、その異物を凝視させられるのだ。見習いの彼らにとって、それは相当の負担となった。

「くっそぉ! 俺はやるぞ!」

「そんな……無理よぉ……あんなの」

自然とチームはばらばらになる。果敢にも戦士が向かって行ったが、傷をつけることも出来ず、返り討ちに合ってしまった。
それを癒すはずのシスターは腰が抜けて動けない。ただガタガタと震えているだけで、とてもじゃないが回復魔法はかけれそうに無い。

魔導師は懸命に炎を唱えるが、一発当たっただけで獣の怒りを買い、一撃を喰らう。たったその一発で、魔導師は気を失ってしまった。

初めての負傷。今までは幻影相手だった為、大きな怪我をすることは無かった。
ぬくぬくと修練していた証拠だ。
機関で大勢鍛えようとすると、自然とこうなってしまう。それを正すのも試験の目的の一つだと言えるだろう。

グレイドはシスターを睨みつける。その脅威的な視線に気付き、震えていたシスターが精一杯叫んだ。

「……っ! もうっ……やっ……やめます……やめさせてくださいっ!」




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あきゅろす。
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