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一次試験14


 ただ空腹で、ただ欲望を満たしたい。そんな空気を漂わす獣がこちらを見ている。

 確かに気味が悪い。だが、所詮は偽者。コウは一息つき、セーレン・ハイルを持ち直す。その隙を狙ったのか、突然獣はもの凄い勢いでこちらに向かってきた。

 これを受け流すことは難しいだろうと考え、自らも走り出す。今気付いたが、足がなんだか軽い。このままジャンプすれば、天井まで届きそうな勢いだ。

 ――ルーンのおかげね……。

 ルーンを信じて、獣を飛び越す勢いで足に力を込め、跳ねた。

 突然の行動に獣はその巨体を止める事が出来ず、そのまま突っ込む。コウ#はひらりと獣の後方に降り立った。そして、必死の思いで身を反転させた獣のすぐ目の前に、飛び込む――。

 躊躇い無く獣の前足を切り落とした。3mの巨体が地面に叩きつけられる。幻影だが少しの地響きは辺りを伝う。

 右足を失い、起き上がれない獣は、鋭い爪でコウを跳ね飛ばそうとした。それをひらりと交わし、ついでにその腕も切り落とす。

 部屋中が酷いうめき声で振動し、それは周りにも伝わった。上で様子を見ていたレッドは、先ほどとは違って真剣な眼でその光景を見つめていた。

 両の前足を亡くした獣は、出血量が致死量を越えたためか、煩い悲鳴と共に消滅したのだった。

 コウの一次試験は終わったようで、終了の合図が鳴った。

「2匹しか戦ってないけど……まあいいか」

 出てきたコウに文句を言う者は一人もいなかった。それどころか、賛美の目が向けられている。それはそれで、少し嫌だったが。



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