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一次試験12


 コウが中へ入ると、審査室でもまた噂していた。コウを見て、これは駄目だな、と早くも諦めかけの審査員。が、誰かの無様な姿は面白い話の種になるため、興味津々だった。

 コウはそんな事には気にせず相手を待つ。すると、出てきたのは今までより明らかに小さな、1mそこそこしかない痩せた虎。

 この一次試験は基礎的な力を見るので、それなりに獣のレベルを変えられる。例えばシスターなんかには巨体をもってこず、非力な者でも相手に出来る、まさにこの虎のようなのがでてくるのだ。

 だがコウは剣士だ。それがシスターと同じレベルの相手とは、あまりに馬鹿にしすぎだ。

 ――まあ、こいつを倒せば通過できるなら楽でいいわね。

 コウはそう考え、相手の虎を見据える。虎は小さく、しかも幻影。殺気などはなく、恐れる理由がなかった。

「ガウガウゥッッ」

 私は自分に向かってくる虎をじっと見ていた。すると「恐くて動けないのか」などと言っている奴がいた。

 恐い……これが?

 無我夢中の虎だったが、密やかに弧を描いたコウの口元に一瞬で気付いた。だがもはや動きを止める事はできず、仕方なくそのまま懐に飛び込む。

 コウはセーレン・ハイルをゆっくりと抜く。手元の飾りがシャンと鳴り、コウの全身から溢れる力により揺れた。しかしコウはこれといって何も構えず、ただ虎の一撃を後ろへ受け流した。

 予想した通り、「逃げてんじゃねぇよ」という外野の声がしたが、それは無視して、体勢を直した虎を気配で感じとる。

 後ろを振り向くと同時に、一振り。

 ――ザシュッ!

 虎は腹に横一線の傷を負い、血しぶきが飛び散った。コウは軽くマントを翻し、血を遮る。本当に血が付いたりはしないのだが、気分的にだ。

 その姿は剣で舞う様にも見えた。

 傍に倒れた虎を一瞥し、まだ息があることを確認する。そのまま真っ直ぐ心臓へと、セーレン・ハイルで一突きした。

「――ギャァッ!」

 虎の悲鳴と鈍い音が響き、虎の幻影は瞬時に消滅した。



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