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一次試験10


 数部屋のバトルルームを何人かの戦士が出入りする。

 手前の部屋にも次の戦士が入っていった。 その男は周りの戦士よりも大分大柄で、大剣を携えている。堂々とした足取りで入っていった彼は、周りの期待を背負っているようにも見えた。

 彼は中に入っても余裕の笑みを浮かべている。「はやくしろよ」と言わんばかりに剣をぶんぶん振っている。審査員も少し慌てた様子で相手の獣を選んだ。

 出てきたのは、大き目の黒の獣。観客は「おおっ」と声をあげた。が、戦士はなんの動揺も見せず、獣に向かっていく。

 ――ザンッ……!

 男は一気に大剣を振り下ろし、一撃で仕留めた。これにはコウも「お、凄い」と声を漏らす。

 あんな風に巨体を吹き飛ばす事は、華奢なコウにな到底無理だ。筋肉づくしのケインを思い出す。

 自分なりの戦い方、というのが大切で、男の人に力で敵わないのなら速さで勝てばいい。それは次の相手で証明された。

 次に出てきた相手は、囲いから瞬時に飛び出て上空を舞った。コウは遠くからしか確認できなかったが、近くで見たら相当大きいであろうと思われる、巨鳥。

 戦士には先ほどの余裕はなく、アレをどう下に引きずり落とすかを懸命に考えていた。だが、相手はそれを待ってはくれぬだろう。

 巨鳥は大きく旋回した後、一直線に戦士に向かってきた。戦士は慌てて構える。だが巨鳥の勢いに押され、地面に転がり込んだ。

「うわっ!」

 戦士の叫びが部屋に響く。周りの観客も興ざめしたのか、部屋から出て行く者もいた。

 巨鳥はさらに攻撃をしかける。戦士はヤケクソの勢いで大振りする。

 バキンッ!

 嫌な……骨の折れる音がした。コウは思わず目を反らす。だが折れたのは戦士のではなく、巨鳥の羽だった。それを確認して、コウは安堵の息を吐く。

 幻影の巨鳥は羽が折れたと同時に地面に叩き落され、消滅した。

 戦士は呆然としながらも、無意識に他の獣を倒していく。その攻撃の威力は殆ど無いに等しいが、彼も戦士の端くれだ。器用に相手の急所を付き、その場を凌いだのだった。

 バトルルームから出てきた戦士は、戦意喪失状態にあった。

 こんなはずでは……。

 一次を受けた者は皆そう感じていた。

 ― 油断 ―

 これは最もあってはならない事で、それを学ぶためにこの一次試験があるのかもしれない。



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あきゅろす。
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