一次試験08
サラもいなくなり、一人はつまらないのでチームのリナを探す事にした。だが本館をぐるりと回ってもリナの姿は何処にもない。彼女も一次は終わったのだろうか。だとすれば、午後に備えてどこかでお祈りでもしてるのだろう。
気付くと結構時間が経っていたので、コウは一次の会場に戻ることにした。1階の正面入り口辺りで、誰かに呼ばれたような気がして振り返る。
「コウ、これから一次か?」
そう親しく話しかけてきたのは、正装を身にまとった警備兵。フレアンだった。
「フレアンさん、この辺りを警備してたんですね」
それを知ってたら、もっと早くここに来たのに……そう言わんばかりの発言に、フレアンは内心嬉しく思った。
「黒い服が似合ってますね、ダークな性格と合ってて」
「どういう意味だ」
「え? 根暗な感じがより一層……みたいな」
「調子に乗るな」と叱られたが、その声に怒りは感じられない。冗談を言えば、冗談で返してくれる。そんな些細な事でさえも嬉しかった。
黒服の警備兵なんてそこら辺に沢山いる。だけど、フレアンさんは誰よりも格好良く見える。これは贔屓目だろうか。
「その調子じゃ試験大丈夫そうだな」
「もちろんよ、絶対突破してみせるから」
思っていたより元気なコウの様子に、フレアンも思わず顔が綻ぶ。だが次の瞬間、その表情は一変して崩れた。
「約束忘れないでね」
昨日、フレアンと交わした約束。
−無事試験に合格したら、秘密にしている事の1つを教える−
「あれは不可抗力じゃないのか?」
「何言ってるの、約束は約束」
ばしっと言い切るコウに、何も言えない青年。その様子が可笑しくて、コウは隠れて笑っていた。それが気に障ったのか、フレアンは逃げる様にしてその場を離れてしまった。
そろそろ自分の番だということに気付き、私も慌てて会場へ向かう。その途中、不意に呼び止められた。後ろを振り返ると、綺麗な笑顔をみせるフレアンがこちらを見ていた。
「頑張っておいで、コウ」
その励ましの言葉だけで充分。私は照れながらも元気な声で「はいっ!」と返事をした。
←前へ|次へ→
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!