一次試験05
そうやって世間話なんかをしていると、部屋の奥から誰かが入ってきた。その人物の登場に、周りは騒がしくなる。クリスは誰が来たのか瞬時に判ったため、あえて振り向こうとしなかった。
が、その人物はまっすぐにこちらに来た。
「おはようクリス君」
「……お早いご出勤で」
嫌味をこめて吐いたクリスの言葉に何の動揺も見せないその男は……
「アモン教皇、今日はここで仕事を?」
そうコウが問いかけると、アモンは何かを目で訴えてきた。それは、『知らないフリしててね』というサイン。
それもそうだ、ただの見習いが最高官位の人間とお知り合いなわけがない。ここで仲良くすると、色々怪しまれる。
コウもまたにこりと笑顔で返し、それ以上アモンに対して口を開くことはなかった。
周りの騒つきは一向に止むことなく、寧ろ激しくなっていた。
「何あの女、一端の司祭のくせに」
「アモン教皇ももの好きですわね」
「いくらこの場を仕切ってるからって、自分が偉いとでも思ってるのかしら」
そんな風な嫌味妬みが聞こえてくる。
「(アモンさんって意外に人気なんだな)」
これらの暴言は明らかにクリスに対するものだった。いつものこと、と呆れ顔でため息をつくクリス。アモンは話しの途中だったが、これ以上はクリスに迷惑だと感じ、静かに離れていった。
「……さぁ、あなたも試験会場に行きなさい」
クリスはそう笑顔で送ってくれた。だが、少し辛そうな面影もあった。
「(何だか……大変そうだな)」
大人の集団だからこそ、色々と付き合いが難しいのかもしれない。
クリスの苦労を改めて知った。
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