一次試験03
=== 宮殿 天の間 ===
コウが出て行った後、ルーンは暇そうに寝台に寝転がっていた。そしてカルロはソファにちょこんと座っている。
人ごみが苦手なルーンは、今日なんかは部屋から出る事も出来なかった。宮殿と言えど、一般人が知らずに回りをうろうろしているので、それらの邪念が気に障る。
カルロは平気だが、各国から軍人が集まる為、もしもの事態を避けて天の間で様子を見ていた。
それに、付いていったとしても大して役には立たない。それはコウが拒むだろうことが判っているからだ。
これはコウの実力を見る試験。精霊の王であっても、直接精霊の、それも古の力を借りるなど出来るわけが無い。コウがそう言うだろう事は分かっていたので、ルーンは昨日の内から手を打っておいた。
実は昨日の夜、フレアンが出て行った後、ルーンはコウにある力を与えていた。他の挑戦者は精霊と契約をしているのに、コウにはそういったものが何も無い。それでは不公平だとルーンが言い張るので、コウも甘んじてルーンの風の守護を受けたのだ。
守護を受けた場所は、両の足。これにより跳躍力が増す。カルロも何か与えようと思ったのだが、実践向けでない上に、風の力と反発しそうだったので今回は止めておいた。
『コウなら無事に合格できると思うが……』
『何か気になることでも?』
カルロの呟きに答えるルーン。だがその返事は返ってこない。カルロが心配していることは恐らく、実際にコウが闇族から精神を奪うかどうかという事。
練習はほぼ完璧で、やろうと思えば造作ないはずだ。だが、まだ何か躊躇いがみられた。それは、カルロが昨日発した言葉。
一度力を得て具現化した精霊は、その力を失うと二度と精霊にはなれない―
つまり、闇の精霊が具現化した闇族は、こうやって試験に使われて戦士に傷を負わされ、死に直面した時……自然に溶け込んでしまい、精霊として存在することは永遠に無い。
精霊なら余程の事が無い限り死ぬ事はないが、力を得て3次元の世界に入ると、そうはいかない。
精霊と言えど、人間やその他動物とほぼ等しく、傷つけば血も流すし、出血量が多ければ死ぬ。
精霊が死ぬ、とはつまり、永遠に自然界の一部となること。今のように姿を変えたり、自然の摂理から離れて行動したりできなくなる。これが精霊達のいわゆる『死』だった。
コウは未だその事に罪悪感を抱いている。今までにも何匹か闇族を殺したが、それらはもう二度と精霊には戻れない。そうさせたのは自分だと、そう悔やんでいる。
今のコウに闇族が討てるか。
表面上は余裕を見せているが……いや、本当に実力では余裕なのだが、最後に踏切れるかは、まだ判らない。それでもコウなら大丈夫だと、信じて待つことにしたのだ。
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