修行18
奥の寝台で、一連の出来事を見守る二人の精霊。まさかコウがここまで気付いていたとは知らなかったらしく、どう反応していいものかと迷っていた。
フレアンはしばらく目を閉じていたが、ゆっくりその紅い瞳を表わしコウに向けた。美しい真紅の眼に惹きつけられながら、コウはじっとフレアンの言葉を待った。出来るなら、無理強いはしたくない。願わくば、貴方の言葉で教えて欲しい。
「君に隠していることは……沢山ある。いずれは話すつもりだが……今言えることは、何があっても私は君の味方だということだけだ。それは今までもこれからも変わらない」
――隠している。私の知らない事は、もっとある。それでも言わないのは、他に理由があるから……?
「貴方、私がアムリアって事を知ってるのよね?」
「……ああ」
「そうよね、ここにいるんだし。……でも、私が気付かなかったのもあるけど、普通の衛兵は知らない事だと思うよ?」
「そうだな……」
彼はそう一言言っただけだった。
私がリストの森から帰ってきて、倒れて天の間で眠っていた時、彼も周りの皆もアムリアの事を一言も話さなかった。ただ体の具合はどうだとか、訓練はうまくいってるかとか……だからその時は、フレアンさんは知らないんだと思ってた。
私が精霊の王−アムリア−だって事。
でも、彼は知っている。私の正体を……
「私を軍事機関に連れて行ったのも、初めからアムリアだって判ってたから?」
「…………ああ」
本当に、必要なとこ何も教えてくれない。さっきから相槌打ってばっかりだ。
「私と会ったのは偶然ではないの?」
「君にあの丘で会ったのは本当に偶然だ」
「そうなんだ……見ただけで判った? 私がアムリアだって」
「……それは……」
彼は躊躇いをみせる。彼は一体何者なんだろう。これは前から思ってなかったわけじゃないけど……
ただフレアンさんに謎が多すぎて、時々どう接したらいいのか判らなくなる。
「じゃあ、本試験に合格したら、何か一個でも教えてくれる?」
コウは甘えるように尋ねる。これにはフレアンも断りきれず、了承するしかなかった。
「……わかった」
「本当!? やった! がぜんやる気出てきた! 明日絶対頑張るねっ」
そう言って明日の準備を始めだしたコウ。その時のコウの笑顔が晴れやかで、綺麗で、可愛らしくて……闇の中に身を置く自分とは正反対の存在だという事に気付かされた。
彼女は精霊の王、私は神軍の長−闇を彷徨う殺人者−
彼女が王として成長していくたびに、私との距離は静かに遠くなる。
――俺はそれが嫌だったのか? 本当は……
第3話「修行」[完]
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