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修行17


 コウは真っ直ぐ黒髪の青年−フレアン−を見据える。その視線が心地よくて、青年は目を反らせないでいた。二人の沈黙を破ることも出来ず、ダイスは静かに息を潜めていた。

 コウは何か気付き始めている。それは、本人にも明確ではないが。彼女の意味深な発言に、どう出るか……ダイスは横目で二人の様子を見ていた。

 ――フレアンさんは、何者なのだろう。クリスさんは、私がアムリアだと知っている。
 それは彼女が帝国の重役であろうことから理解できる。またアモン教皇も同じで、帝国の最高司祭長官ならばアムリアに関与していて当然だ。
 アムリアを守る一族であるダイスさんは問題ないとして……

 コウは以前マリアに言われた事を思い出した。― アムリアであることは極秘にしてください ― その意味をよく理解していなかった私は、ただ疑問に思うだけだった。
 けれど……今なら分かる。きっとマリアさんも帝国の人だ。そう考えるのが一番自然だった。

 そう考えていくと、フレアンだって疑わしい。

「あなた、出身がティレニアだっていうの、嘘でしょ」

 コウは手に持っていたナイフを置く。カチャリという金属の音がした。それは異様なこの空気をよりいっそう緊張感溢れるものにする。

「だっておかしいもの、絶対。初めてここに来た時、ただの教官だと思ってたマリアさんだってアムリアの事知っていた。適性検査のお姉さんまで司祭だったし、いきなり見習いの部屋に最高官位のアモンさんが乗り込んでくるし……」

 コウの頭の中は混乱状態にあった。まるで今までの疑問を全て吐き出すかのように……。フレアンはただそれを黙って聞いていた。

「私今までアムリアなんて只の人だって思ってた。だけど全然違う。世界に一人しかいなくて貴重で、国を左右する力もある。帝国と東国だって一歩間違えればまた戦争よ? それを助長するのが他でも無くアムリアだってことも、私分かってるんだから」

 コウは一通り話すと、息苦しい胸を抑えて呼吸を整えた。一度に色々なことを思い出していたためか、頭に体が付いて行かない。

 フレアンは席を立ち、コウの後ろに回って体を抱き上げた。突然の事に驚いたが、抵抗する気力もなくてなすがままになる。

 横抱きにされたままソファへ下ろされ、手掛けに頭を静かに落とすと、コウはふぅ……とため息を吐いた。

 フレアンもソファの余白部分に座り、両膝にひじを当てて、手前で両手を組む。コウからは青年の横顔しか見る事ができなかったが、それでも彼が難しい顔をしているのは分かった。

 いつもならここで冗談でも言って誤魔化すのだが、もうこれ以上秘密にされるのは嫌だった。まるで、子供を危険から遠ざけるかのような、そんな扱いを受けているみたいで……。

少し、寂しかった。



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あきゅろす。
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