修行08
――ふわり、ふわり。空の向こうまで飛んでいってしまいそう。私の中にある温かいもの。ようやく君を見つけた。
「……コウ」
「ん…………」
「コウ!」
「……んぁ?」
静まりかえった部屋に情けない声が響いた。それを聞いた周りの者は皆安堵したが……その中から、声を殺して笑っている奴がいる。
その男の方をギロリと睨む、黒髪の騎士。
「真っ黒……さらさら……あれ? カルロと違う色……」
『……!』
「カルロ? 何を寝ぼけているんだコウ、大丈夫か?」
「う? え――と」
目の前に漆黒の髪をした端正な顔立ちの青年がいた。見覚えがある。それも何度も……。
そしてこんな事が前にもあった様な気がした。えーと、ええーと……
「あ! えと……フレアンさん!」
「……忘れてたのか」
「――くくっ」
笑いを堪えれなくなった男が思わず声を出してしまった。そちらの方をまた一睨みした後、フレアンはコウの頭を優しく撫でた。
「よかった。なかなか目が覚めないから心配した」
「え? あれ……何でここに……?」
「君が倒れたと聞いて飛んできた。他にも何人か――」
そう言って紹介された人物が2人。先ほどから必死で笑いを抑えている金髪の男。その横で男を叱咤している赤髪の司祭。
2人共がこちらを向き、笑顔で迎えてくれた。コウもまた、はにかんだ笑顔をみせる。
コウが修行中に倒れたのは3日前。
カルロ達は疲れて眠ったコウを天の間へ運び、ダイスが来るのを待った。大慌てで現れたダイスは、眠る少女を見ていっそう動揺し、高熱を出した子供を扱うように世話をした。
実際は眠っているだけだったのだが。
しかし意識はいっこうに戻らない。カルロやルーンが言うには、多量の精神を動かすことに慣れておらず、情報を整理しているとのこと。それを後から聞いたコウは、「そうなんだぁ」と自分の事なのに実感は無かった。
事がことなだけに、フレアンや他の人間にも伝えたわけだが……案の定、すぐに全員集まった。
「すみません。迷惑かけてしまって……」
「迷惑などと思っていない。君が無事目覚めてよかった」
「フレアンさん……」
コウは自分がフレアンに恋しさのようなものを感じていた事を思い出し、少し照れて俯いた。フレアンもまた、コウを思う気持ちが何なのかはっきりと判らず、こちらもぱっと目を反らした。
二人のおかしなやり取りにいち早く気付いたのは、あほ教皇。失礼、アモン教皇。彼は二人の初々しく可愛い反応を見て、「楽しめそうだ」などど思ったに違いない。
しかしそんな様子に気付いたクリスは、少々不機嫌だ。だが、もっと不機嫌な者が一人……今は「一匹」という方が正しいだろうか。
『コウ嬢はあの騎士が気になるのか?』
『………………』
カルロは話しかけてきたルーンに言葉も返さず、じっとコウ達の様子を見ている。
今は他の人間に彼ら精霊の姿は見えていない。フレアンも本当なら見えるはずだが、コウの事で頭が一杯であった為周囲に気を配る余裕がなかった。
ほのぼのしい空気と、憎悪に渦巻く空気が異様に混ざったこの光景を、ダイスは一人見守ることしか出来なかった……。
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