修行05
『ここは周りと隔絶されていますから、平気です』
「ここじゃなかったら大丈夫じゃないってことね?」
そう言われ、ルーンはまた黙る。
このやりとりに飽きたのか、カルロはそっぽを向いている。
私は少し頭を悩ませた後、一つ提案をした。
──それは、しばらくの間ルーンはこの月の間に留まるという事。
この部屋なら誰も入っては来られないし、近づく人間もいない。本試験までは毎日ここに通うつもりだし、試験に合格すれば例の招待された館へと行かなければならない。
何にせよあと6日だ。
全ては本試験を無事乗り越えられるか否か。それが私の行く末を決める。
「ね、そうしよう? 今はなるべく休んでおいた方がいいわよ。後で私がたーっぷりこき使うつもりだから」
笑顔でさらりと言うコウに若干引き気味の精霊達。
だが確かにその通りで、コウはこのティレニアに収まるほど小さな器ではない。
いずれは各地に赴き全世界を旅しなければならないのだ。そう考えると今は少しでも温存しておいた方がいい。
「本試験なんか人がうじゃうじゃ出てくるのよ? ルーンが倒れちゃうわ」
『それは、しかし、本試験を侮っては……』
「大丈夫よ、ダイスさんやカルロもいるんだから」
『今はコウの言う通りにしておくのが無難でしょうね』
カルロがぽんっと言葉を投げた。
それにしぶしぶ賛同したルーンは、本試験が終わるまでの間は月の間で過ごすことになった。
一旦話が終わったところで、本題に戻る。
『コウ、やり方を変えましょう』
「え? 変えるって?」
『このままではあまりに漠然とし過ぎていますから』
カルロはそう言って懐から刀を取り出した。その柄も服によく合っていて、綺麗な金細工だった。
鞘から抜き取り、鋭い刃が姿を現す。
「ちょっと、それどうする気よ」
『どうって……刀の使い道など一つしかないでしょう』
「まっ待って! 頑張るから! 精一杯やるからお願い刺さないで!」
目の前で容赦なく「刺すぞ」と言われたような気がして、慌てて止めに入った。が、取り越し苦労だったらしい。
カルロは私を指すつもりは無い。はっきりそう言ったのだから。
『あなたに刃を向ける訳ないでしょう。そんなことは一生ありえません』
「は、はぁ……じゃあ何に使うの?」
『ですから、使い道は一つだと言ったはずです』
カルロは至って普通に刃を自分の皮膚に押し当て、さっと軽く引いた。
ただそれだけで赤い液体が静かに流れ出た。
じわじわと服に赤い波紋が広がり、やがて染み出る。
私は──ただ、見ていることしか出来なかった。
事の重大さをなかなか理解できなかったが、暫く赤を見つめていると、それがカルロの血液であることに漸く気がついた。
既に喉は痙攣していて音を鳴らせない。開いたままの口からは、驚愕の喘ぎのみが紡がれる。
端で見ていたルーンも寒気を感じ、きゅっと目をつむった。
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