修行04
力を加減するのにも段々慣れてきた。自由に与え、戻す。これが出来れば後は練習あるのみ……
そう思った時つい油断してしまった為か、急に向こうに引っ張られる感じがした。
『コウ、もっと強く抑えてくだ……』
カルロが言い終わる前に突風が巻き起こった。その風を受けて「わぷ」という声が出る。目も開けられないほどの風だったが、次第に弱まっていった。
目に当てた腕をゆっくり下ろし、目を開く。目の前をさらりと金の糸がかすれた。
「…………ごめん」
『はぁ……全く貴女は』
コウはちらりと目線を上に向けた。金色でさらさらした細い髪が、カルロの肩を滑る。ぱさりと落ちた髪は金粉でも振り撒くかのように揺れていた。
「あはは、カルロ綺麗だね」
『嬉しくありません。まぁ丁度いいですね、元に戻してみて下さい』
「え!? いきなりそんな……」
躊躇うコウにカルロが一言。
『ではキスを?』
その言葉を聞いた瞬間「結構です!」と声を張って拒否した。
精霊でもキスという言葉を知っているんだな……などと思っていたコウだった。
――気を取り直して。
コウはカルロが言う漠然とした言葉では理解できず、四苦八苦していた。そんな時、黙り込んでいるルーンに気付く。そう言えば先ほどから一言もしゃべっていない。コウはルーンの方へ向かった。
「どうかしたの? ルーン」
小さなひよこを抱えながら、心配の目を向ける。精霊は直ぐには反応しなかった。しばらくある一点を見つめた後、コウの存在に気付く。
「調子悪いの? 大丈夫?」
『あ、はい……いえ』
気のない返事にいっそう心配になる。カルロが静かにこちらに近づき、ルーンを見下ろす。カルロを避けているかのように目線を反らす小鳥。ひとつため息を吐いた金の精。
コウは二人の暗黙のやり取りをただ見ているだけだった。
『無理をすると後々持ちませんよ』
『!? 無理などしていない!』
『……それならいいですが』
ちらりとコウの方に目をやる。突然話を振られて戸惑うが、やはりこれは何か無理をしているんだろうと感じた私は、そっとルーンの頭を撫でた。思いがけず撫でられた小鳥はぴくっと震えた。
「ルーン、何か気になることがあるなら教えてくれないかな」
『コウ嬢……』
『フェザールーンは人間の気が苦手なのですよ』
痺れをきらしたカルロが横から助言した。その言葉の意味を深く理解することは出来なかったが、人間の気が苦手となると……
「じゃあ、私の気も……?」
『……』
『そうです、特にここは俗物が多いので……恐らくフェザールーンにとって最悪の状態かと』
その言葉に私は唖然とする。今まで何とも無かったのはルーンが言わなかっただけで……本当はずっと苦しかったんだ。
もの凄く罰の悪そうにしている鳥は、一度もこちらを見ようとしない。黙っていた事を気にしているのだろう。
守ると言いながら、自分がどれほど脆弱な存在かを思い知らされ、悔しくて仕方が無かったのだ。どれだけ我慢をしても、カルロの様に人間の集団に入り込むことは出来ない。
本当に悔しいが……長い間人から離れて行きてきたルーンは、到底カルディアロスには敵わないのであった。
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