修行03
ダイスに案内された部屋は、月の間という巨大な空間。あまりの広さに唖然とする。試しに発した声は遠くまで響き、何重にも重なった。壁には様々な武器防具が置かれていた。一通りの諸事項を説明し終わると、ダイスは部屋から出て行った。
「貸切だって。すごいね……カルロ、ルーン」
周りをせわしく見渡しながら、いつもと変わらず冷静な精霊達に同意を求めてみた。
『これくらいでなくては……王の力を侮ってはいけませんよ』
「……へぇ」
常に上から目線のカルロ。そういう所は本っ当に可愛くない。人型の時ならまだしも、今は動物の姿なのに……
迫力に気圧されている自分が情けなかった。いかんいかん、気合よ気合!
「さ、やるわよ! 何から始めればいい?」
『そうですね、まずは腹筋100と腕立て100』
「え!? うそっ!」
『嘘です』
こいつ……。
コウの中を廻る血液が徐々に熱くなっていく。いい加減……この根性悪い性格を直して欲しいものだわ。
『まずは昨日と同じように力を与える練習を…………コウ? 話を聞いてくださいね?』
「あっはいっ! ……ごめん」
小さな精霊にも頭があがらない。私、精霊の王なのに……。
このままカルロに力を与えて人型になって、そんで更に上の上の上から目線で責められいびられるんだ。ああもう嫌になってきたな……。
『やめますか?』
カルロがそう言ったので、反射的に「やる!」と言ってしまった。
――やるけど。
『力を制御出来れば、闇族から精神を抜き取って灰にすることもできます。簡単な事ではありませんが、あなたなら必ず出来ますから』
「……わかってるわ」
急にフォローに回ったカルロに驚き、コウは勢いを失くす。とりあえず今は細かいことは気にしない事にした。
昨日と同じように、私はカルロが正面に立つ。意識を集中させ、昨日の感覚を思い出していた。力まず、焦らず、相手の呼吸を読み取りながら、同調させる……。
『そう、あと少しです』
カルロの声に少し安心し、そのまま続ける。目を閉じてなるべく外界から閉ざし、カルロの小さな手を取り軽く握った。柔らかい手……。肉球はないから犬や猫じゃないんだな……。
『……集中……してますか?』
「え!? 何で判ったの?」
『今は私とあなたは同調してますから。それくらい判ります』
カルロにばれてしまったことに恥かしさを感じながら、しがなく同調を続けた。
深く深く感じていると、時々体が軽くなる。その周期はだんだん規則的になってきて……
―ふわり。
一瞬だけ全身の力が抜けた。その後直ぐに襲い掛かる重圧感。これを過ぎればあとは……
「カルロ、力行ってる?」
囁くように静かに声を立てる。カルロもまた小さな声で「はい」と答えた。それに安心したコウは失敗を繰り返すまいと、力の抜け具合を調節する。
与えるときは流れる感覚に身を任せ、力を放出する。与えすぎたと感じたら手に少し力を入れ、呼び戻す。これを繰り返していくと、少しずつ感覚で理解してきた。
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