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2:力の加減10


 柔らかな雰囲気が部屋を満たしていた時、ダイスが思いついたように質問する。

「そういえばリセイ様がおっしゃっていた昔と変わっていないとは何のことでしょうか」

 アモンの笑顔がぴたりと止んだ。「何でもない」というように首を大きく横に振る。その様子が可笑しくて、リセイは声に出して笑った。

「リセイ君! 失礼だな……まったく」

「はははっ。すまない……。ダイス殿、知りたいか?」

「はぁ。気にはなりますが」

 もうアモンは寝たふりをしていた。彼の行動から、知られることが嫌なのではなく、恥ずかしいのだろう。ダイスは安心してリセイの話を聞いていた。

「昔、私とアモンは共に帝国を支えると誓い、修練に励んでいたんだ。私が神軍軍総に就任することは決まっていたのだから、当然アモンも神軍に志願するものだと思っていた。だがアモンは帝国貴族専属の司祭になったんだ」

「そういえば……そうですね。アモン様は何故軍人となってリセイ様のお傍にいないのか」

 まだ寝たふりを続けるアモンに向けて話した。だが、彼はこちらを向こうとしない。気まずいのだろうか……リセイを裏切って司祭になったことが。

「リセイ様はそれでよろしかったのですか?」

「私も彼を責めた。だが彼の本意を知った時は正直悔しかった……あの時アモンは私が考えるよりもっと先を見ていたのだから」

 苦笑するリセイ。ダイスはいまいちリセイの言うことが判らない。

「アモンは私にこう言ったんだ。『これは俺の意思だ。お前はいずれ覇王となり帝国を導く男になる。その時お前が自由に動かせるように、先に準備して待っている』……と」

 ダイスはリセイの話に驚いていた。彼が……アモンが何故リセイの下に就かなかったのか。なぜ神軍としてリセイの傍にいないのか。その深い心遣いを知り、言葉も出なかった程だ。

「そんな立派なもんじゃない……俺がそうしたかっただけだ」

 ソファに埋もれていたアモンが照れくさそうにそう言った。ダイスは「左様でございますか」と言いながらも、嬉しそうに笑っていた。

 ――誰に何と言われようと、俺はお前の味方だ。

 父親の不手際を子供のリセイに押し付け、潰されそうだった少年の心。アモンの言葉は孤独なリセイを救った。

 貴族でもないアモンが司祭になるということは、並大抵の努力ではない。周りからの圧力に押されながら、必死に耐えて耐え抜いた5年間……。

 若さを疎う政治家達を追い抜き、ようやく最高司祭の地位を得たのは5年前、アモンが22歳の時だった。

 今では彼に文句を言う者は一人もいない。確固たる地位を獲得した今、アモンはようやくリセイの前に立つ事が出来る。

 この時をどれほど待ちわびたか。

 立場は違えど、その心は同じだと信じていた二人。彼らが培ってきたものは揺るがぬ想いへと変わる。

「アモン、これからもよろしく」

 そう言って、手を差し伸べたリセイ。その申し出に心底驚いたアモン。こうも照れくさい事が続くと、顔が沸騰しそうだ。

「……当然だ」

 いつものリセイを真似て言葉を返し、手を取り友情を確かめ合った。

 その二人を静かに見つめるダイスは、そこに新たな世界の行く末を感じていた……。



 第2話「力の加減」[完]



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あきゅろす。
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