2:力の加減07 氷の騎士
コンコン。
静寂を破るように扉を叩く音が部屋に響いた。滅多に人なんか尋ねてこないのに、よりにもよってこんな時に。
「お届け物です」
どうやら機関の職員らしき人が、わざわざ何かを届けてくれたらしい。その親切はありがたいが、今はとってもタイミングが悪いというやつだ。
「はっはい! すぐ行きます!」
コウは慌てて扉を開けようとするが、ここで大きな問題が発生していることに気付く。コウは奥に居るカルロを見やった。平然と寝台に座っている金髪の美青年。部屋に男を連れ込むなんて絶対やばい! 一刻も早くヤツをなんとかしなければ!
「(カルロ早く隠れて!)」
『(こんな狭い部屋で隠れるも何も……)』
「(狭くて悪かったわね! いいからとにかくどっかに行って!)」
目で訴えかけるコウに対し、カルロも冷静に返した。
「どうかいたしましたか?」
「いっいえ! すぐに……」
混乱するコウの耳元に触れるようにカルロが囁いた。
『私から力を奪えばいい』
「なっ……(何言ってるのよ! 出来るわけないでしょ!?)」
いつもならもっと冷静な判断が出来るのだが、何故か今はそんな余裕がなかった。そんなコウの気持ちを察してか、カルロは仕方なくコウの言うことを聞く。
だがそれは予想外の事態を招いた。
ちゅ
コウの左頬が少し熱くなった。それは瞬く間に伝染し、顔全体を赤く染める。
「(カルロ! なにす……)」
コウは勢い良く振り向き、金髪の青年に怒鳴ろうと思っていた。しかし後ろに人の姿はなく、向こうの寝台にルーンがちょこんと座っているのが見えた。カルロはというと、
『この方法が一番簡単ですから』
どこか言い訳じみた言葉。視線を下に向けると、足元に緑のタヌキが立っていた。
力を奪うのに「ほっぺにちゅ」が簡単ですって? ふざけてんのかこいつ!
そう叫びたい気持ちでいっぱいだったが、ぐっと堪え、急いで扉へ向かった。
扉を開けると、暫く待たされて不機嫌な職員がこちらを見ていた。愛想無い言葉とともに渡された封筒。送り主の名は無く、表に私の名前が書いてあるだけだった。
職員は渡しおえると直ぐにどこかへ行ってしまった。……待たせたのは悪かったけど、ちょっと感じ悪い。
「にしても、誰だろ……」
コウは部屋の扉を閉め、再び寝台に座る。布団の中に隠れていたカルロとルーンが出てきた。二人とも、手に持つ封筒を凝視している。
『何ですか? それ』
「さぁ、宛名が無いのよね。私の知り合いなんてそんなにいないんだけどな」
自分で言ってて虚しかった。ルーンが中を見るように勧めたので、それに従い封を開ける。大きな封筒の中に、小さな封筒が入っていた。
普通の茶封筒とは違い、どこか高貴な様子を感じさせる。紙のくせに、金箔で蝶の絵が描かれているし、手触りも気持ちいい。
「この封筒を開けたらまた小さな封筒が……とかいう悪戯じゃないでしょうね」
コウはぶつくさ言いながら小さな封筒を手にとる。すると、裏に名前が書いてあった。
「えっと、親愛なる乙女へ。氷の騎士ヘルト」
『ラブレターですか?』
「何言ってんの! だいたいヘルトなんて人知らないわよっ」
反応に困っていたコウを茶化すように言うカルロ。
氷の騎士ヘルト
聞いた事がない名前だ。考えても仕方がないので中を見ることにした。
中に入っている便箋もやっぱり素敵で、光に当てるときらきらした。綺麗な文字で書かれている、その一字一字に集中していた。
―親愛なる乙女 コウへ―
はじめまして。突然の事で驚いているかもしれませんが、この度は我が館へあなたを招待したく、手紙を送りました。
何かと忙しいとは思いますがどうか是非一度西国へお越しください。
交通手段、片々護衛など、こちらの方で手配させていただきます。
私の家臣がティレニアに滞在しておりますので、その際は家臣にお伝えください。
―氷の騎士 ヘルト・リュートニア―
「館へ招待……」
コウは読んだ後も理解できず固まっていた。西国の事はあまり聞かないし、よく知らない。そんな所に知り合いが居るはずも無い。そんな時、ルーンが助言した。
『リュートニア家の者ですね』
「リュートニア? まさか……ダイスさん!」
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