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2:力の加減06 一粒の差


 コウは何も知らない。こんな時どんな風に相手を慰めていいかも判らない。そんな自分を不甲斐ないと苦しめていた。

 コウは何でも自分で背負うようになっていた。本人にはあまり自覚はないが、周りから見ると痛々しく思う時がある。

 突然『精霊の王』だ、等と言われれば、普通なら反発して事実をなかなか受け止められないものだ。だがコウにその選択肢はなかった。

 コウにとって、自分という存在の在りかを知る術がなかったから。コウも精霊達と同じように、ずっと宙に浮いた様な感覚でここまできた。

 コウにとって今、周りを取り囲む存在こそが自身の証明となっている。だからこそ手助けとなってくれる人々を大事に思い、精霊の王である自分にも何か出来ないか、と考え込んでしまう。結果、多くの物を背負うのだ。

カルロは気まずい雰囲気を振り払うように明るい声を出した。

『さぁ、もうこれくらいにしましょう。今は他にやる事がありますから』

「やる事?」

 コウはきょとんとした。色々と考えていたため、本来の目的を忘れてしまっていたのだ。

『……本試験に困ってるんじゃなかったんですか?』

 半ば嫌味混じりの言い方。カルロってばやっぱり私の事嫌いなんじゃなかろうか。いやいや親切にしてくれるし……

『力を与えるだけでは収支の調和がとれません。あなたに必要なのは「力を奪う」ことです……聞いてますか? コウ』

「ぅへ!? あ、はい! 聞いてます聞いてます!」

 ちょっとふざけた言い方で返すと、カルロはあからさまに呆れたという顔をした。

 カルロのため息を、今日だけで何度聞いただろう。今までは動物の姿だったから、ため息なんてつかないし(たぶん)、当然表情もいちいち気にならないし……だけど、今のカルロは違う。ちゃんと人と同じように喜怒哀楽を見せる。

「(喜とか見てない気がするけど)」

 とりあず長引きそうな問題だったので、後回しにした。今は目前の本試験の事が最優先だ。

「アムリアって、精霊から精神力を奪ったり出来るんだ」

『あなたは精霊に多大な力を与えれる分、奪えもする。当然のことです』

 そっかぁ、と感心していたコウだった。しかしこれは他人事ではない。まさに今自分に課せられた使命なのだから。

 アムリアの力をうまく制御するためにも、力を与えること、また奪うことは必須だった。それが出来るなら、精霊に余計な力を与えなくてすむ。うまく調和がとれるだろう。

「そうよね、精神力を奪えたら、闇族にも対応できるし」

『その通り、闇族にとってアムリアは天敵ですから。まぁ王が私利私欲で動き始めたとき、それは闇族にとって最高に甘い蜜を与えることにもなりますけれど』

「今までにもいた? そういう人」

『いましたよ、何人も何十人も。アムリアとして担がれた者のほとんどがそうでした』

冷静な口調から、少し苛立ちが感じ取れた。それは憎しみとは違う、明らかな拒絶を表していた。
そんな様子を見たコウは、カルロが長い間生きていることを思い出す。果てしなく長い時間を、常に変わりゆく人々の心に惑わされながら、いったい彼はどんなことを思い生きてきたんだろうか。

「力って便利だけど、恐いよね」

コウは消えるような小さな声でそう呟いた。現実として、コウは強大な力に翻弄されつつあった。

『あなたが心配することはありません。それに我々が付いていますから』

カルロはとても優しかった。以前と同じように接してくれているんだろうけど、人の姿だとこうも安心するもんなんだな、と思った。

「ありがとう、カルロ」

何かが溢れ出しそうな、そんな柔らかで優しい笑顔を見せたコウ。カルロの中の強固な理性も、ここまでくると感情を抑えるのに必死だ。同時に浅はかな感情の芽生えを感じもした。




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