2:力の加減03
『さて、やってみましょうか』
カルロは立ち上がり、コウの方を向いた。コウも畏まって正座する。正面に立つカルロはコウに出来るだけ近寄り、手を伸ばした。
『私の手に触れるだけで結構です』
「はい!」
何故か主従関係が逆転したかのようなこの会話。ルーンはこれから起こることが予想できたらしく、黙ったままだった。するとカルロは目を瞑り、囁くようにそっと呟いた。
『今から私に精神力を渡してください』
そう言われても、どうしていいか判らない。だから渡すってどうやってすんのよ。
「わかりません」
この、小学生レベルの回答。今更ながら、自分はまだまだ幼いな、と思う。だが、カルロは全く気にしていないようで、優しい顔つきでこちらを見つめてきた。
『焦らなくてかまいません。いきなりできる事ではありませんから。まずは私と呼吸を合わせてください』
「カルロも息するんだ」
『そういう細かいことを気にする余裕があるならさっさとやってください』
「はいぃっ! すすすみませんっ」
カルロの口調は常に淡々としている。本当に冷たいというわけではないんだが、話し方に無駄がないというか、女子高生と正反対な会話だと思うことは多々あった。
『コウ、集中してますか?』
「え? あっうん! 大丈夫!」
カルロはあからさまに溜め息を吐いた。
『呼吸はだいぶ合ってきましたね。では、あなたの中の一番暖かいものを思い浮かべて下さい』
「……?」
『何でもかまいません。思い出とか、好きな人とか』
「すっ! 好きな人なんていないよ!」
『例えばの話です。いちいち動揺しないで下さい。精神が乱れます』
「ごめんなさい」
もしかして、カルロに嫌われているんじゃないかとコウは不安になった。
カルロはコウに判るように噛み砕いて説明している。それに応えようとコウも必死だった。
カルロに言われた暖かいものというのが、いまいち理解できなかったが。感覚というものは経験によってのみ養われる。やはり何度も何度も繰り返すしかなかった。
『自分の内なる力を感じ取ってください』
「内なる……力? ううーっ」
思わず力んでしまうコウの手を、カルロはそっと握る。それに少し安心したコウは、自然と手に集中する。
『!』
ふわり。
空気が浮いた気がした。自分の周りだけ重力が無くなったみたいに……
「……あれ?」
不思議と、何も考えなくても体から力が抜けていく。それは脱力に似て非なるもの……何と表せばいいのか、わからない。言葉では説明できない感覚がコウを取り巻く。
『コウ、もう充分です』
「ち、違うの……と……止まらない」
『止めてください』
カルロはいたって冷静だった。コウも表面的には冷静かの様に見えたが、実際は激しい動悸に動揺していた。それは極度の緊張からくるものなのか。少し青ざめたコウの額に汗が一つ流れた。
『コウ、今私に与えた力をそのまま自分に……』
「む、無理っ!」
急に力が暴走しだした。これにはカルロも驚いた表情になり、それがさらにコウの心を乱した。それと同時に、周囲の気配が異様に変わる。異変を察知したルーンはすぐさま後方へ下がった。
『コウ! いけませんっ! 戻し……』
ゴゥッッ……!!
凄まじい風の音とともに、コウは後ろへ飛ばされ座り込んだ。腰を打ったため、すぐには立てない。
一体何が起こったのか。確かめることもできず、ただ痛みが走る腰をさすっていた。
『まったく。まだまだ未熟ですね』
呆れたカルロの声。コウは俯いていた顔を上げ「ごめんなさい」と言おうとした。言おうとしたんだけど。予想外の光景に目を疑い、コウは声をなくした。
ただ一言、美しい
『口が開いたままですよ、コウ』
「……あ」
もう何を言っていいのかわからない。こんな時はどうすればいい? 仕方がない。正直に思った事を言おう。
「カルロ……綺麗ね」
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