2:力の加減02
コウの簡略化した言葉に、カルロは大きく頷いた。コウは自分で言ってはみたものの、首を傾げて唸る。
『同じ空気を吸って、同じ物を食べて育っていても、それぞれ人間の質は異なるものだ。質が良いか悪いかが問題ではなく、精霊の好む質というものがある』
「あ、じゃあ、私が持つ精神の質は精霊好みってことなんだ!」
『まぁそういうことですね』
コウは少し納得できた。自分が特別優れているというのではなく、珍味的なものだと知り、肩の荷が少し軽くなったような気がした。
「私は基本的には他の人と変わらないんだね」
『まぁ、ちょっと変わってるくらいじゃないですか?』
「よかったぁ! 精霊の王とか言われちゃったから、なんかやけに重く感じてて……でもよかったぁ」
『ですが、貴女の珍味が精霊に与えるものは絶大ですからね』
カルロは釘をさすように言った。コウはまた表情を硬くして泣き顔になる。
「わかってるよ。珍味って填る人は填るからね。ちなみにさ、普通の人が与える一粒と、私が与える一粒の差ってどれくらい?」
『一粒って何ですか?』
「つまり……まぁ適量ってことよ」
『(また無茶苦茶な)そうですね……』
カルロは少し考え込んだ。ルーンは質問の意味さえ理解できていない。コウは「倍くらい、いや、十倍……百倍とか!?」などと想像を膨らませていた。
『例えば火の精霊を例にした場合、普通の人なら一晩でティレニアの中庭程度の樹を灰にできます』
「え! あの広い中庭の樹全部!?」
『はい。あ、もちろん精神を与えたその人間は、間違いなく死にますが』
隠すふうもなく言ったあと、カルロは少しだけ後悔した。
コウを相手に生死の話をするのは何故か気が引けてしまう。
このご時世、子供でも理解できる命のやり取りについて、コウには酷だとさえ思ってしまった。
『当然です。一日中精霊に精神を与え続けたら、まず死にます。人間の精神量は大抵それぐらいです』
コウの口はポカンと開いたままだ。その阿呆な顔に、ルーンは思わず笑いそうになる。が、なんとか堪えた。
「――私、は?」
恐る恐る聞くと、カルロはまた少し考えて、静かに答えを紡いだ。
『あなたなら、絶対とは言えませんけど恐らくは、一度精神を充電してあげたら世界を焼き尽くせるでしょうね』
世界を、焼き尽くす?
「冗談……」
『真面目に答えてますよ。人が常に与え続けなければならない精神力を、あなたなら一度の供与で何千倍の効果を発揮するということです』
「……」
言葉が出てこない。カルロは何を言ってるんだろうか。いくら珍味だからと言っても、アムリアと普通の人間にそんなにも差があるなんて。
「どれだけマニアックなのよ」
『……変態呼ばわりしないでください』
厳しく返すカルロに動じず、コウは二人の精霊を感心するように見つめた。
「私の精神は精霊好みなのね。まったく、仕方ないわねぇ。私ったら超モテモテじゃない」
にこにこと笑顔でそう言われ、カルロとルーンはお互いを見合って、目を丸くした。
モテモテの意味は全く判らないが、二人はなんとなく感覚で理解した。
『さあ! おしゃべりはこれくらいにして、本題にはいりましょう』
「何か誤魔化した?」
『……まさか』
その間が怪しかった。
助かったのは精霊二人。カルロとルーンは、もうすぐで言ってしまいそうだった自分の本心を黙っておくことに成功したから。
彼はコウに明らかに主従とは違う特別な感情を抱いている。彼女はコウの精神の質が少し苦手だった。
精霊にも好き嫌いはある。それがたとえアムリアだったとしても、合う合わないがあるのだ。もちろん他とは比べ物にならないくらい、コウの精神は「美味しい」。だが、長い間人間の精神力に触れていなかった彼女は、それが少し苦手になっていた。
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