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2:力の加減01

カルロとルーンが森の結界を張りに行った事など知るはずもないコウは、二人が帰ってきたことを心から嬉しく思っていた。ダイスからは、二人にも積もる話があるのだろうと聞いていたから。だが単に、本当の事を言うと色々と面倒になるだろうと思われていただけなのだった。

それから数日が経ち、コウが本試験で悩んでいる時に二人は帰ってきた。


第2話 力の加減


コウの自室で、カルロとルーンは寝台の上に仲良く座っている。ただこの時のルーンはずいぶんと抽象的な姿をしていた。一言で言うならば。

「ルーン、ひよこみたい」

『ひっ……!?』

思いがけない言葉にルーンは動揺した。カルロは端で笑っている。

そう、正にひよこ。大きさは手のひらサイズだ。薄い黄色のふわふわ羽毛。可愛らしいクチバシ。どこから見ても、ひよこにしか見えない。

『私は古時代の生き残り……崇高な存在のはずが……』

「ごめんね、ルーン。気にした?」

ぶつぶつと独り言を言うルーンを覗き込むように見ると、彼女は恥ずかしそうにしている。その様子がとても可愛くて、思わず抱きしめたくなった。

『あなたになら、かまいませんよ』

「そうなの? じゃあ遠慮なく」

コウはルーンを抱き寄せた。あまりに突然だったのでルーンは腕の中で暴れているが、そんなことはお構いなしにぎゅうっと抱きしめる。
カルロはなぜか羨ましそうに傍観していた。

『っぷは! まったく、めちゃくちゃな人ですね、あなたは』

「コウって呼んでくれないの?」

『え……?』

「カルロもだよ」

二人とも、どう反応していいか判らないようだ。
彼らは何人ものアムリアに出会ってきた。だが、女性であることは稀であったし、アムリアといっても元は普通の人間なので、精霊を信用する者は少なかった。
信用なんかされなくても、アムリアがそばにいるだけでも癒されはする。だから、親しくない相手にわざわざ心を開くことはせず、深く関わろうとしなかった。

『私達は……精霊です』

「だから? なんかクリスさんみたいなこと言ってる」

カルロは首をかしげる。コウの口から出た言葉に。なぜそこで『クリス』のことが出るのか。

「クリスさんもね、私が精霊の王だからって畏まるの。でもそれっておかしいでしょ?」

『おかしい、ですか?』

「おかしいよ! 私はアムリアって職種なだけで、偉い人ではないのよ?」

コウは「理解できない」といったように怒り出す。怒るといっても、文句を言う程度だが。
その様子を見ていたカルロとルーンは、いいようもなく嬉しかった。精霊にとって、自分自身の確かな存在を得ることは、彼らの切なる願いでもあった。

それは、彼らがこの世から消える時、何も残せないからだった。ただ塵となり自然の一部となって、還るのだ。いつかはそんな運命を辿ると知っているからこそ、確固たる『存在の証』を強く望んでいた。

二人とも、それを口にすることはなかったが。

「で、さっき言ってたことの意味は?」

コウは話を元に戻す。嬉しさに浸っていた二人は、慌てて真剣になった。先ほどちらりとカルロが言った言葉。

“全てには収支の関係が成り立つ”


コウは当然だが、この意味をうまく理解できない。物体を上に持ち上げるには、何かしらのエネルギーが必要だとか、エネルギーを与えられた分だけ、物体は元より上の位置に存在できるとか。そのエネルギーの供受は等しいことくらいはなんとなく分かる。

「人が精霊にあげた精神の量だけ、精霊から力を受け取れるってことでしょ?」

『その通りです』

「でも、それは私には関係ないと思う」

アムリアは精霊に対して無限に精神力を与えられるが、普通ならありえないことだ。与えた分の精神力を、アムリアはどこから受け取っているのか。

『アムリアの力は未だ謎です。ただ一つ言える事は、人が与えた精神力と、精霊が受け取る精神力は異なります。人は精霊の力を使う時精神力を消費しますが、精霊はその力をそのまま受け取らない。我々はその精神の”質”を得ているのです』

「質? それは、まずいモノより美味しいモノを食べたほうが力が出るってこと?」



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