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仲間15


 事は数日前に遡る。

 天の間、窓際の大寝台に眠るコウは、その日は目を覚ますことはなかった。それでもカルロは傍を離れなかった。

 リノアの森での出来事が応えたらしく、気絶してしまったコウをカルロは優しく見つめていた。

 ずっとずっとこうしていたい。そんな彼の願いが叶うことは無かった。

 大窓に掛かる天幕が揺れ、柔らかな風が部屋に巡った。

『封印がうまくいかないのか?』

 カルロは誰に言うでもなく、ただコウを見つめたまま言葉にした。
 そう言われ、悔しそうに近寄るもう一つの影は言った。

『私だけではどうにも出来ん』

『だろうな。あの封印は私がかけたのだから』

 カルロは淡々と話す。会話の相手は風をまとい、カルロの傍まで来た。

 ──美しい金の鳥。
 その影とは、古の風の精霊フェザールーンの姿だった。

『カルディアロス、それを知っていて何故来てくないんだ』

 どことなく不貞腐れた感を漂わす風の神は、人間の子供くらいの大きさだった。

『自分で何とかしようとしたんだろう? お前の好きにさせてやりたかっただけだ』

『……面倒くさいだけだろう』

『……』

 一見可愛らしい精霊達だが言葉遣いは長老の様。実際長老と言わずもっと年取った奴らなんだが。

『我らの王は不思議なほど強い。だが、かなり不安定だな』

 風の神フェザールーンには未だ眠るコウの姿が非常に儚く見えた。

『……精霊王が人間ということ自体、不安要素の尽きない大元だ。両者の仲介役など人間には荷が重すぎる』

『──それでも、我々には彼女が必要だ』

 ルーンの真っ直ぐな瞳は容赦なくカルロを貫いた。
 たった一人の少女に果たせるものではないと、カルロは何処かでコウを甘やかしていた。

 その弱さに、ルーンは気付いていた。

『──守るだけが愛ではない』

 ルーンは目を細め、痛みを伴う過去を思い返しながら、続けた。

『精霊にとって、愛って何なんだろうな。中途半端に触れられないなら最初から手の届くところになければいいのに……』

 掠れた記憶に残るのは、笑顔と涙、そして最期の時──。
 夢など当に見尽くして、今は満足に眠ることも叶わない。

『何百回と人間達が巡る様子を見届けてきたが、残されたものはきっと一番辛い』

 雫の様に落ちていくルーンの言葉を拾いながら、カルロは重く目をつむった。

 蘇る情景はいつだって残酷で、最期に見た色は血よりも赤く、瞬間に地面を染めあげた。

『愛って、何なんだろう』

 ルーンの呟きに返事はなく、カルロはただコウを視界に映していた。

 誰の目にも触れさせず慈しむことは可能だろうか。許されるなら、このまま自然界に隠しておきたい。
 そんなカルロの思考が読めたのか、ルーンは一層眉をひそめた。

『カルディアロス、念のために言っておくが、世界はコウという存在に気付いてしまった。もう隠し通せることじゃない』

『……分かっている』

 覇気の無い言葉は辺りをさ迷い地面に落ちた。

『コウは……いずれは君臨させる。だが今はまだ、早すぎる』

 急いている筈が回り道を選んでいる矛盾に気付かないふりをして、カルロはふわりと浮かび上がった。

『今は……己を知ることが先立つ』

 カルロに続いてルーンも羽ばたき、二匹の精霊は扉を開けた。

 去り際に、月光に照らされたセーレンハイルが淡く疼いた気がした。


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あきゅろす。
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