仲間13 考え込んでいた隙に、残り四匹の獣は少しずつ私に近寄った。 私が意識を集中させると直ぐに自慢の跳躍を生かして遠ざかった。 「……うん、もう君達に要は無いよ」 それだけ言うと、私はセーレン・ハイルを鞘に収めて獣に背を向けた。 踏み出すべきか否かを迷う獣達は、やはり規定通りに訓練生へと向かってしまう。 殺気を振り撒く彼らに背中を向けたままの私は、ふう、とため息を吐いた。 「もういいって言ったのに……」 訓練室で行われる殺戮は、恐らく許されているのだろう。それは相手が精霊と言えども実態を持たないからだ。 所謂精霊に近い存在、とでも言いおうか、とにかく彼ら幻影には生の観念が存在しないことが第一条件に挙げられる。 けれど私が対峙しているこの灰黒の獣達は、何故か知らないが確かに生身である。 ここでの行為は罪にはならないのだろうか。今更だが、無意識にそんなことを気にしていた。 取り敢えず立ち止まり、セーレンハイルと呼吸を合わせる。それだけで空気は冷えて、皮膚を滑って痛みをもたらした。 一瞬の殺気を感じた獣達は身を震わせ足を止めた。 彼らはそのままじっと私の背中を見つめ、体は凍り付いた様に固まっていた。 「そう、それが賢い選択だよ」 冷めた微笑の後、訓練室の扉を開けた。その瞬間に大気が渦を巻いて溶け出し、獣達の肉体は消滅してしまった。 私はそれを横目で確認して部屋を出た。 ぱたん、と扉を閉め、静まり返った自室に安堵する。 暫く一点を見詰めたまま呆然としていたが、ふとした疑問に思わず声が出た。 「やっぱりおかしい……」 訓練室を出た後シャワーを浴びて汚れを流し、左腕の手当てをした。 各部屋に置かれた救急箱から血止めと包帯を取り出し、それらを駆使して器用に巻いていく。 応急処置が完了した後、どさりと寝床に横たわった。 「訓練室の相手は幻影なんかじゃなかった。なら、私の時に現れる彼らは一体……」 機関には数え切れない程の訓練生がいる。その中で私にだけ故意に操作しているとは考えにくい。 ならば何が違うというの? 「私と皆の違い……? なんだろう」 眉間に集められた皺がぱっと伸び、目は真ん丸に剥いていた。 だるい体を無理やり起こして口を開け、たった今脳裏に浮かんだ答えを整理した。 闇の精霊は精神を喰らい、肉体を得て実体化する。それには相当の精神が必要で、普通の人間が相手になっても実体化するには及ばない。だから訓練室は幻影の獣のみで安全なんだ。 ──だが、私が斬ったのは実体化した獣。彼らが何故実体化したのか。その為の精神力は何処から得たのか。 私は何だ? 何が違う? 「私は、精霊の王、だから……?」 ←前へ|次へ→ [戻る] |