第5話:消せない過去
ティレニア軍事機関の最奥にある宮殿は、一般の生徒や教師でさえ立ち入り禁止の場所であった。
その為普段は中に人が殆んど居ない状態だが、今はコウを含め多くの人間が体を休めていた。
アムリアが現れる時を待ちながら宮殿を守り続けている執事ダイス。今はティレニアの議長補佐だが本属は帝国神軍であるマリア。同じく身分を偽りティレニアに潜伏している司祭クリス。ティレニアと帝国を行き来している放浪教皇アモン。
そして、お忍びで帝国から出向いた帝国神軍軍総リセイ。だが今は東国の動きを警戒して、警備兵フレアンの姿でいた。
宮殿の最上階にある大部屋「天の間」には誰一人として入ったことはない。それは、その部屋が誰の為に用意されたものか明確であったからだ。
誰も入れない、その領域とは――。
精霊の王アムリアの為に建設され、護られてきた神聖な空間だった。
第5話 消せない過去
一般の使用人たちが天の間に近づくことはなかった。だが今はそこに眠る一人の少女を囲って、数人が部屋に入っている。
大きな窓の傍に置かれたダブルサイズの寝台に横たわるは、幼さ残る少女、コウであった。
その傍らでカルロが心配そうにコウを見つめていた。
マリアが寝台の横に用意した一人掛けの椅子は、湾曲型の柔らかい大椅子だ。そこに腰掛ける男はコウに視線を向けたまま放さなかった。
ダイスはコウが起きたときの為に、何か食べるものを作ってくると言って部屋を出た。
マリアは通常通り生徒達の講義をしに、クリスはもう一度森の様子を確認すると言って、それぞれ出ていった。
アモンは議長等からこってり絞られている頃だろう……。
つまり今この天の間に居るのは、カルロとリセイ、それから未だ眠り続けるコウの3人のみだった。
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