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9話 消せない過去


 リセイは窓の方を向き、遠くを見つめた。さすがのアモンも今回ばかりはリセイの心を読めないらしい。

 しばらく沈黙が続いたが、その静寂を破ったのはリセイだった。

「俺がフレアンではなく、帝国の軍総だと知ったら、コウは今以上に多くの事を抱えなければならなくなる」

 リセイはそう言いきった。アモンはぽかんと口を開けて、言ってる意味を理解しようと必死になる。リセイの本性を知ると、多くの事を抱える。コウが……? それは……

「お前、つまりコウに余計な心配させたくないって言いたいのか?」

「まぁ、そういう事だ」


 リセイは清々しく言い放った。これに対しアモンは一気に脱力する。これだけ考えたのに……と。
 例えばコウに危険が及ぶとか、すでにココに何者かが侵入しているとか……色々考えてたのに、出た言葉は「心配かけたくないんですぅ〜」とは。(こんな言い方してません。)

「あ……のな、リセイ君。なんでコウが心配しなきゃならないんだ? お前が軍総だと知った所で、あの子には直接関係ないと思うが……」

「何言ってる。そうなればコウの事だ。『洗いざらい全部吐き出せっ!』とか言って凄んで来る」

「――確かに。あの嬢ちゃんは只者じゃない」

 アモンは青ざめながら想像していた。もの凄い気迫に押されて、逃げ場を無くした自分達の状態を。

「全部話したら話したで、複雑すぎる事情に混乱するだろうし」

「しかも騙してたってことを知ったら……」

「――」

「おい、リセイ――」

「それ以上言うな」

 二人はそれから先のことは考えないことにした。リセイは、ただの仮定の話にさえタジタジだ。何故こんなにコウに弱いのか、本人も判っていないらしい。


 リセイがフレアンとして身を隠している事情を理解するには、帝国と東国の歴史や因縁を知る必要がある。今、精神が不安定なコウにとって、それはあまりに重過ぎる過去だ。
 彼女が自分の力を制御出来るようになり、心が安定するまでは……いずれコウに降りかかるであろう災いについて、隠して彼女から遠ざけたい。

 これが本性を言わない理由だった。



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あきゅろす。
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