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9話 消せない過去


=====宮殿 廊下=====


 宮殿の周りに沿って続く廊下は緩やかに湾曲しており、先々が見えない。片方は大きな窓がいくつも規則的に並び、その一つ一つに豪華な装飾がされてある。もう片側は壁になっており、見事な絵画が飾られていた。上には小さいながらもシャンデリアが掛かり、下には肌理細やかな絨毯。

 そして、その上を颯爽と歩く男が二人。

 金の長い髪をなびかせ厳格な教皇専用の式服を来た男は、少し先を行く黒髪の男をじっと見ていた。

「(あいつ……コウを帝国へ連れ帰らないつもりらしいが……)」

 それで……いいのか?
 そう言いたげなアモンは、上手い言葉が見つからず黙るしかなかった。アモンのあまりに静かな様子に気づいたのか、リセイは歩く速度を落とす。
 アモンはリセイに並び、そっと顔を覗いてみた。

「何か言いたい事があるのだろう?」

 リセイは口の端を上げてみせたが、あまり上手く笑えていない。アモンは言っていいものか……と考えるが、目に入るリセイの苦しげな顔に我慢が出来ず、思い切って言葉にした。

「リセイ、コウにまで正体を隠す必要は無かったんじゃないのか?」

 ようやく、言えた。
 アモンは言った後、今まで溜めていたもやもやを重い息と共に吐いた。随分気を遣わせてしまったのだと感じたリセイは、正面を向いたまま静かに答える。

「いいんだ……言うと後々面倒だしな」

「心配しなくてもコウは誰にも言わないと思うぞ?」

「ははっ…そういうことじゃない」

 リセイは暫くぶりに声を出して笑った。それはきっと、予想もしてなかった突飛な事を言われたからだろう。
 コウが口外する? そんな事は少しも心配していない。確かにあまり多くの人間に正体を知られると、どこからか情報が漏れる恐れもある。だが、その中にコウは当てはまらない。彼女はそんな人間ではない。そんな事は……とうに知っている。

「じゃあ、何が面倒だって言うんだ?」

「……これは俺の問題だ」



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