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9話 消せない過去
「そろそろ私も仕事に戻ろう」

 クリスはそう言って立ち上がる。コウはもっと話していたい気分だったが、仕事に差し支えてはならない。快く頷いた。

「クリスさん、色々とありがとう。またお話してもらえますか?」

「もちろん、コウ様にそう言ってもらえると、私も嬉しい……」

 クリスははにかんだ笑みを見せた。それが少し可愛らしく思えたコウは、更に嬉しくなった。

「まだ病み上がりなんだから、くれぐれも無理はしないように」

「はい! 了解です!」

「……」

 コウはテンションがかなり上がっており、ハキハキと返事をした。
 そんなコウを見て安心したクリスは部屋を後にした。

 戸が閉まってもしばらく手を振っていたコウだが、その手を口元に当てた。
 初めに異変に気付いたのは、カルロ。だが気付いたときにはコウの顔は真っ青で、冷や汗が出ていた。カルロはコウの容態が思わしくないと判断し、慌てて呼ぶ。

『マスター?』

「コウ様! どうされました!?」

 ダイスも必死で叫ぶが、コウは応える前に立ち上がり、入り口の洗面台へ走った。洗面台に両手を付き、首を突っ込んで、先ほどから体内を巡っているモノを出す。
 その様子を、呆然と見るダイス。カルロはコウの元へ駆け寄り、そっと声を掛ける。

『……大丈夫ですか……?』

「ん……だいじょぶ……」

 コウは弱々しく返事を返した。何度か繰り返した後、口を濯ぎ、体を落ち着かせる。
 ダイスはフラつくコウの体を支え、ソファへ連れ添った。
 カルロもそれに続く。



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